interview

もっと台湾(以下、も):では最後の質問です。
日本の読者に薦めたい中華圏の書籍を1冊、紹介いただけますか。
ストーン(以下、ス):鄭問(チェン・ウェン)1
漫画『阿鼻剣』を推薦します。

:とても有名な漫画ですね。
漫画は鄭問さんが描いていますが、原作は別の方が書かれていますね。
:原作は大塊文化出版2の会長である郝明義さんです。
1990年ごろですから、もう20年以上も前の作品です。

:鄭問の漫画は日本でもたくさん出版されています。
:はい。『東周英雄伝』3
日本で発売されたということは知っていますが、『阿鼻剣』はどうかな?

:『阿鼻剣』を推薦する理由と、この本の魅力を教えてください。
:この漫画の第1部では仏教経典に関することが語られ、第2部は4章に分けられ、
貪(むさぼり)・嗔(怒りの心)・愚・癡(愚痴、真理に対する無知の心)について
語られています。これら人間の煩悩は現代社会にも存在するもので、
人間社会があるところであればどこにいても直面するものだと思います。
好きな作品として挙げたイタロ・カルヴィーノの『見えない都市』にも
『阿鼻剣』と共通するテーマが描かれており、
そこが僕が強く引き付けられる理由なのだと思います。

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『見えない都市』の最終章にこんな文章があります。

 「生ある者の地獄とは未来における何ごとかではございません。
  もしも地獄が一つでも存在するものでございますなら、
  それはすでに今ここに存在しているもの、
  われわれが毎日そこに住んでおり、
  また、われわれが共にいることによって形づくっているこの地獄でございます。
  これに苦しまずにいる方法は二つございます。
  第一のものは多くの人々にはたやすいものでございます。
  すなわち地獄を受け容れその一部となって
  それが目に入らなくなるようになることでございます。
  第二は危険なものであり不断の注意と明敏さを要求いたします。
  すなわち地獄のただ中にあってなお誰が、また何が地獄ではないか
  努めて見分けられるようになり、それを永続させ、
  それに拡がりを与えることができるようになることでございます」

現実の生活の中で、困難に打ち当たったり、挫折した時、
人はいかなる態度でその問題と向き合い、いかに生きていくのか……
深く心に突き刺さる書籍です。

『阿鼻剣』は僕がまだ若いころに読んだ作品で、
武狭漫画として楽しんでいました。
そのころはまず鄭問の絵の迫力にものすごい衝撃を受けました。
動きのスムーズさも素晴らしいですが、
彼は中国の水墨画の技法を漫画に持ち込んだ漫画家です。
そのスタイルは新しく、とても革新的でした。
自分自身が成長して、もう一度この作品を読み返した時に、
この漫画には現代人が直面する
さまざまな問題を描かれていると気づいて、驚きました。
そういった意味で『阿鼻剣』は
後からじわじわパンチが効いてくる漫画だと思います。
出版されてからもう20年以上経過している作品ですけれど、
今読み返しても全く古さを感じません。

僕たちMaydayはワールドツアー「NOWHERE ノアの方舟」4
【世界の終焉】をテーマに、人間らしさや人間が直面する
さまざまな問題について議論を戦わせてきました。
老子、荘子そして古代の哲学者が語ってきたことは
すべて通じるものがあると思います。
人間は今までずっと同じ問題に直面してきたのだと思います。
若いころはやはり漫画に描かれている表面的なものしか
見えていなかったんでしょうね。
でも今は『阿鼻剣』が語る普遍的な哲学を読み込めたと思います。
ですから、ぜひ日本の皆さんにも『阿鼻剣』を読んでいただき、
世界中の人々に学んでほしいですし、
人生哲学を一緒に理解していただけたらうれしいです。
もし「もっと台湾」さんが今後、郝明義さんにお会いする機会があれば、
ぜひ彼に『阿鼻剣』の続編を書いてくれるよう、お願いしてください!
よろしくお願いします。

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(終わり)

800_6828-xストーン(石頭)
本名、石錦航。台湾人気ロックバンド「Mayday」のギタリスト。1975年12月11日台湾、台北生まれ。国立台湾師範大学付属中学、淡江大学環境工学科卒業。コンサート中に当時交際中だった女性にプロポーズし、その後結婚。2007年に長男が誕生し、「小石頭(小さな石)」の愛称で知られている。2009年には、第二子が誕生している。

 

*4月15日スタートの佐藤健主演フジテレビ系ドラマ
『ビター・ブラッド』の主題歌“Do You Ever Shine?”をMaydayが担当。
Maydayオフィシャルサイト:http://www.mayday.jp

photo by 熊谷俊之/text by 西本有里

  1. 1958年生まれ、桃園県出身の漫画家。1984年に「時報周刊」で処女作『戰士黑豹』を発表する。その後1990年3月から講談社『モーニング』誌上で「東周英雄伝」の連載を開始し、日本デビューを飾る。筆のみを用いた圧倒的な画力と熱いストーリー展開が好評を博し、1991年には日本漫画家協会賞優秀賞を受賞している。 []
  2. 1996年に郝明義が興した総合出版社。 []
  3. 講談社『モーニング』誌上で連載された作品で、第20回漫画家協会賞優秀賞受賞。古代中国の春秋戦国時代を舞台に、多士済々な人物を大胆な解釈を交えつつ独特のタッチで描いた作品。 []
  4. 2011年12月の台北を皮切りにスタートしたMaydayのワールドツアー、2014年の現在もツアーを継続しており、3月末にはアメリカ公演を成功させた。中国語名は「五月天 諾亞方舟世界巡迴演唱會」。 []