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報道とは何事かを知らせる筋道のこと。
台湾のことを日本に伝えるには、背景知識が必要です。
この連載では、ジャーナリスト・野嶋剛さんお薦めの作品を
ご紹介いただきます。
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取材される側に回ってみると?

文=野嶋剛

台湾で拙著の繁体字版を出版すると、
プロモーション活動に呼んでもらうことを楽しみにしている。
私の場合、『ふたつの故宮博物院』『謎の名画・清明上河図』
『銀輪の巨人』という3冊の本がいずれも台湾で翻訳されており、
前の2冊で幸いなことに台湾に招待され、数日間プロモーションに励んだ。

日本では、私の本は、正直いってそんなに売れないし、
プロモーションを出版社が組んでくれるほど注目されない。
書評に取り上げられるのを待つことしかできない。
しかし、テーマが台湾の故宮や中華文化を中心としているだけあって、
台湾での出版は多少状況が違って「売れ筋」に入ったりするのだ。

訪台期間中は新聞、テレビ、ラジオなど
いろいろなメディアの取材がアレンジされているのだが、
もっとも苦手としているのがテレビ出演だ。

『ふたつの故宮博物院』では、中国電視というテレビ局で
「新聞愛逗陣」という名前の討論番組に出演することになった。
有り難いことにテーマは私の本だという。
私は存分に自分の思いを語ることができる、はずだった。

番組には、私以外に男女二人のコメンテーターがいた。
どちらも歴史の専門家だという。温厚で優しそうな方々で、
事前の打ち合わせでは「あなたの本がテーマだから
その内容を中心に討論しましょう」などと言うので、
すっかり安心して収録を迎えた。

ところが、この二人は番組開始と同時に人格が一変したようになり、
猛烈な勢いで話し始め、私は完全に出番を奪われた。
通常、日本ではこの種の討論番組では、
一人で話しすぎると視聴者から嫌われ、次の出番がなくなる。
司会者もそうならないように場をコントロールする。
しかし、女性の司会者はまったく彼らの発言を遮ることなく、
自由にしゃべらせている。

「新聞愛逗陣」はCM含め合計40分の番組で、
4段階に分けて7~8分の長さで収録を進めていった。
二人は司会者からの質問に答えるだけではなく、
質問と関係のないことを延々と話し続けた。
私も同じように「時間の争奪戦」に参加すればいい
と言われればそれまでだが、語学力の問題もあるし、
普通、外国人は遠慮もあってそこまで図々しくなれない。

結局、私の発言は40分のうち10分に満たず、
二人のコメンテーターや司会は「お疲れさま、謝謝!」と
足早にスタジオから去っていった。台湾で、彼らは
「名嘴(有名コメンテーター)」と呼ばれる人種に属する。
台湾のニューステレビ局の夜のゴールデンタイムは
基本的に討論番組で占められ、
「名嘴」たちは毎日登場して延々としゃべり続ける。
遠慮は負け。いかにマイクを奪うかの真剣勝負で鍛えられているだけあって、
そのスキルにはかなうものではない。

この春、中国でも『ふたつの故宮博物院』が簡体字で出版され、
プロモーションに呼ばれた。テレビ恐怖症にかかっている私は、
出版社のほうに「なるべくテレビは外してください」と頼んでいた。
それでも、最後に送られて来た日程表には
北京と上海のテレビ局が1社ずつ入っており、
出版社からは「いろいろ断ったけど、
この2社はなんとか我慢してください」と言われてしまった。

当日、おそるおそるスタジオ入りしたのだが、
いずれも雰囲気はNHKの番組のような穏やかさで、
ゲストも司会者もいたって温厚に振る舞い、
公平な発言時間の配分を心掛けてくれた。
聞いてみると、中国では、台湾のような激しい討論番組は、
共産党一党支配のお国柄か、まずやらないらしい。

ともかく、今まで自分から他人を取材するばかりだった私にとっては、
他人にこのように取材された経験はなく、
拙著の翻訳出版を通じて、台湾の激しい発言時間の奪い合いや
中台のテレビ文化の違いを身をもって理解できる、得難い経験となった。

(連載第2回は6月にお届け予定です)

journalistPH野嶋剛(のじまつよし)
1968年生まれ。上智大学新聞学科卒業後、朝日新聞に入社。シンガポール支局長、政治部、台北支局長、朝日新聞中文網編集長などを経て、2014年4月からアエラ編集部。著書に『ふたつの故宮博物院』『謎の名画・清明上河図』『銀輪の巨人 GIANT』などのほか、近刊に『ラスト・バタリオン 蔣介石と日本軍人たち』(4月下旬刊行予定)がある。