食べ物のお話(1)

文=木下諄一

今回、日台文学交流イベントを取材することになりました。
テーマは「食」。
創作の世界ではよく取り上げられるというか、定番のようなテーマです。
とはいうもののこのテーマ、誰もが身近に感じるものだし、人の数だけ違った食がある。
ということで、きっとおもしろいお話が聞けるだろうと期待して会場に向かいました。

お話を聞かせてくれるのは作家の窪美澄さんとエッセイストの一青妙さん、
そして台湾からは作家の張維中さんが参加して進行役を務めました。
窪さんは小説『アニバーサリー』の中で食についての内容が頻繁に登場するし、
一青さんについては、エッセイ『ママ、ごはんまだ?』は全編食についての内容。
というわけで、今回のテーマを語るに納得のお二人です。

さて、作家と食というテーマについて、ぼく個人的には
ヘミングウェイや池波正太郎や画家のロートレックが愛した「どこそこの何々」
というような切り口よりも、普段食べてるものとか、
作家自身の生活に密着したお話が聞きたいと思っていたのですが、
そういう意味では今回のトークは期待通りの内容。
お二人とも気取らず、ありのままの食について語ってくれました。

そこでおもしろかったのが「もっとも印象に残っている料理」という質問。
子どものころに食べた料理の中で印象に残っているのは何かというものです。
子どものころに食べた料理、特にそれが家庭料理だったりすると、
ぼくはついつい興味が湧いてきます。
なぜならひと口に家庭料理といっても、それぞれの家庭で地域条件が違う、
経済環境が違う、母親の料理スキルが違う(父親が作る場合もあるかもしれませんが)
ということで千差万別。これが好奇心を掻き立てるのです。

そんな中、一青さんが挙げたのが「塩辛とスルメ」。
台湾料理が出てくるかと思いきや、まったく予想外の答えでした
(厳密にいえば、それって料理じゃないだろと突っ込みたくもなるのですが、
思い出の味ということで理解しました)。一青さんのお父さんはお酒が好きで、
彼女はお父さんのおつまみを一緒につまんでいたとのこと。
なんとなく雰囲気が想像できる、晩酌のいい光景です。
もう少し希望をいうなら、ほかにはどんなおつまみがあったのかとか、
どんな会話をしていたのかとか話してくれたらもっとよかった。聞きたかったです。
もう一つが「蘿菠糕」。日本風にいうと大根餅です。
一青さんの印象に残る蘿菠糕の味は著書でも紹介されているように
お母さんが作ったもので、台湾の巷の朝食屋で売ってるのとは別物とのこと。
この感覚はよくわかります。
外で売っている蘿菠糕は材料費も手間も削減、もちろん愛情も入っていませんからね。
それに最近台湾では自分の家で蘿菠糕を作るという話は
めっきり聞かなくなってしまいました。
だからこそ一青さんにはきっと特別な味としてずっと残っているのでしょう。

(続きます!)

kinoPH木下諄一(きのしたじゅんいち)
台湾在住作家。
小説『蒲公英之絮』(印刻出版社)が第11回台北文学賞を受賞。
自由時報に不定期連載のコラムをまとめた『随筆台湾日子』(木馬文化出版)が好評発売中。