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『プライベートアイズ-台北・監視カメラ連続殺人事件』
原題:私家偵探(「私立探偵」の意)
著者:紀蔚然
出版社:印刻文学生活雑誌出版
仕様:351ページ、約16万字、縦組み。2011年8月初版刊行。
カテゴリー:中国語文学(小説、ミステリー、ハードボイルド)
特設リンク:『私家偵探』ブックビデオ(中国時報)

目次
1 開業  部分訳1を読む→
2 依頼  部分訳2を読む→
3 醜態
4 追跡
5 異変
6 決着
7 休息
8 情事
9 情報
10 報道
11 逮捕
12 釈放
13 捜査
14 変装
15 仏典
16 真相
17 銃声
18 酒宴

読みどころ・あらすじ

 酒乱で冷徹に人をなじることで有名な大学教授兼劇作家が、台北の路地裏に隠遁し、(台湾初?の)私立探偵になった。
 監視・防犯カメラが路地の隅々まで設置された台北で発生した連続殺人事件。そこにいなかったはずの探偵は、犯行現場にいたという動かぬ証拠(映像)をつきつけられ逮捕される。主人公と警察、主人公と犯人との間で繰り広げられる知性と罵声のトリック崩し――探偵を陥れたのは復讐犯なのか。はたまた愉快犯なのか。釈放後、探偵は膨大な量の監視カメラ映像と、人を弄ぶように残された証拠をジグソーパズルのように組み合わせ、ついには犯人を特定する――解き明かされた犯人の正体と異様な殺人計画とは? そしてクライマックス、監視カメラの死角で犯人と探偵の肉弾がぶつかり合う!

 確かな構成力に裏打ちされたトリッキーでスピーディーなストーリーと、シニカルなモノローグ、台湾らしい丁々発止な会話がめっぽうおもしろい、本格ハードボイルドミステリー。劇作家として長年活躍する著者・紀蔚然が満を持して放った、処女作にして傑作(怪作)長編小説である。2011年『中国時報』「十大好書(年間ベストテン)」選出。

 美しい人妻から依頼された初仕事。単なる浮気調査だと思いきや、探偵と相棒のタクの運ちゃんの機転で、意外な事件の真相が明るみになった(第2-6章 →部分訳1を読む)。その後、探偵が暮らす台北の僻地(臥龍街)で連続殺人事件(第9-18章 →部分訳2を読む)が発生する。金か女がらみの衝動型犯罪がほとんどの台湾で、非常に珍しい計画型犯罪である(しかも犯罪先進国・日本でよくある綿密かつ変態的な犯人だ、と探偵は推理する)。複数の監視カメラに残された犯人らしき映像、接点も共通点もない被害者たち、そして犯行現場がGoogleマップに描く意味深な図形……相棒の下っ端警官から情報を入手し独自の推理を進めていた探偵だが、まさか証拠のすべてが彼を犯人であると指し示し、逮捕・勾留されてしまう。唯一生き残った目撃者は面通しで、彼を犯人だと断定した。
 まさか自分を陥れるため? ならば誰が、どんな理由で? 厳しい取調べに追いつめられながらも、探偵は仕掛けられた罠を見破る。(閉ざされた空間での刑事との知恵比べが本書の見せ場のひとつである。)
 釈放後、警察と協力して真犯人を追う探偵だが、被疑者が特定され、犯人像が明らかになっていくにつれ、犯人と探偵の過去の接点が浮かび上がる。犯人は探偵のすぐそばにいた……。

 主人公・呉誠(ごせい)は、著者の自画像といってよい。頭脳明晰で、理路整然と他人を攻撃する(あるいは推理を展開する)彼は、同時に強迫症、不眠症など精神の不安を抱えており、そんな人物造形が物語に奥行きを与えている。また探偵がいちいちひとりごちる現代台湾社会への痛烈な批判は、都市論、文明論としても読める。作中、自分を犯人扱いしたマスメディアに主人公が逆襲するくだりは痛快である。
現代日本でもありうる、公共スペースに設置された監視・防犯カメラを利用した犯罪トリックという同時代性と、一人称語りでありながら伏線張りと回収の巧みさが素晴らしい。一方で、台湾らしい大らかでにぎやかな登場人物たちの会話と、おせっかいとうっかりのコメディ要素が楽しい作品である。

著者:紀 蔚然(き うつぜん/ジー・ウェイラン)
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1955年、台湾基隆市生まれ。劇作家、小説家、台湾大学演劇科教授。輔仁大学英文科卒業。1978年より戯曲発表、『愚公移山(愚公〔ぐこう〕山を移す)』などで大きな注目を浴びる。その後演劇活動を休止してアメリカ留学、アイオワ大学で英米文学博士号取得。1996年より帰国し演劇活動再開。1997年劇団「創作社」設立に参加するなど、精力的に活動を続ける。2008年再び劇作の筆を置き、小説執筆に専念。本作は彼のデビュー長編小説となる。著書に演劇論『現代戲劇敘事觀:建構與解構(現代演劇叙事観:構築と脱構築)』、エッセイ『嬉戲(おふざけ)』(2004年、印刻)、『誤解莎士比亞(シェイクスピアを誤読せよ)』(2008年、印刻)など。舞台脚本に『夜夜夜麻(夜毎麻雀に更ければ)』(1997年初演)、『一張床四人睡(ひとつのベッドに四人眠れば)』(1999年初演)、『烏托邦 Ltd.(ユートピア株式会社)』(2001年初演)、『嬉戲之Who-Ga-Sha-Ga(おふざけWho-Ga-Sha-Ga)』(2004年初演)、『影癡謀殺(シネフィル殺人事件)』(2005年初演)、『瘋狂年代(狂った時代)』(2008年初演)など、戯曲出版も多数。映画脚本に『自由門神』(2001年、王童監督)など。邦訳出版なし。

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