中国語の「達人」はその道のプロ。
台湾にかかわるプロは、いったいどんな台湾ブックに触れているのでしょうか。
初回は台湾在住の作家、木下諄一さんにご案内いただきます。

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激動の時代に生きた男と女「大和撫子」(1)

文=木下諄一

台湾の文学作品を一つということで、数ある中から今回選んだのがこれ、「大和撫子」。
著者は台湾の文壇からはもちろん、代表作「三脚馬」が海外でも高い評価を受ける鄭清文だ。
鄭清文の小説は戦前の日本統治下の台湾を舞台としたものから
田舎に住む台湾人の生活を描いたもの、現代社会を風刺したもの、
大人のための童話まで多岐に渡るが、
そのどれもがセンスのよい言葉使いと小気味のよいテンポで淡々と綴られる。
そして心地よい読書感と共に、気がつけばその文章の奥に込められた
深くて大きなテーマがひしひしと伝わってくるのが特徴だ。

「大和撫子」もまさにそんな小説といえる。

この小説は戦前の日本統治時代から終戦、戦後と激動する時代を舞台に、
そこに生きた一人の台湾人女性の生涯を描いている。
彼女は歴史に名を残すような偉大な人物ではないし、
かといって誰からも好かれるような可愛い女性でもない。
敗戦で日本が撤退すると、ためらうことなくそれまで名乗っていた
「川口秀子」という日本名を「呂秀好」と中国名に変更したり、
14歳年上の外省人教師と結婚したがうまくいかず、
いつしか博打に溺れていったりと、
どちらかといえばあまり人に好かれるような性格ではない。

それでも、なぜか彼女には魅かれるところがある。

それは戦中の空襲で家族を失い、親戚の家に預けられ、
なりたかった教師にもなれず、といった境遇にあっても、
彼女がそれらをすべて自分の人生の中に受け入れて生きようとしているところだ。
そこには時代の壁に押し潰されまいとする
彼女の生命力が感じられるばかりか、もしこの時代に生まれていなかったら……
思わずそんなことさえ考えさせられてしまうのだ。

(続きます!)

column#1「大和撫子」鄭清文著
2012年9月出版の短編集『青椒苗』(麥田出版)所収の短編作品。台湾の文学雑誌『聯合文学』(聯合文學)誌上で2005年9月と2006年2月、2度に分けて発表された。
木下諄一(きのしたじゅんいち)
台湾在住作家。小説『蒲公英之絮』(印刻出版社)が第11回台北文学賞を受賞。自由時報のコラムをまとめた『随筆台湾日子』(木馬文化出版)が好評発売中。写真は「大和撫子」の著者鄭清文さんと。