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映画人・張震(チャン・チェン)が
台湾人作家の短編小説を原作に挑んだ自身の初監督作。
この小説との出会いや、小説の何がそこまで彼を惹きつけたのかなど、
詳しくお話を伺いました。

取材・構成=西本有里、写真提供=Cat(タイトル他)、許闖(プロフィール)

 

もっと台湾(以下、も):たくさんの本を読んでいらっしゃいますが、
1か月で平均何冊くらいの本を読みますか。

張震(以下、張):平均すると1か月に1、2冊ぐらいでしょうか。
僕は仕事をしている時に本を読むことが多いです。
仕事に行く時は必ず本を持っていきます。それもあって飛行場で本をよく買います。
どちらかというと作家を追いかけることはあまりしていなくて、
本屋で手に取って、文章描写を読んで気に入れば買うことが多いです。
本を買う時には、簡単に読める本と、内容が深くてじっくり時間をかけて読むのに適した本の、
両方を買います。自分の状態に合わせて割り振りながら読んでいます。

:最近完成させたご自身初の監督作品について伺いたいです。
今回2012年の聯合報文学賞短編小説大賞を獲った『尺蠖(尺取り虫)』1という
小説をもとに映画を撮られましたが、どのようにしてこの小説を知ったのですか。

:僕は2012年に発表された短編作品集を購入して『尺蠖(尺取り虫)』を知りました。
台湾では毎年、さまざまな作家の方が書いた短編やエッセイを集めた作品集が出版されます。
自分が購入した短編作品集には『尺蠖(尺取り虫)』以外にも
素晴らしい小説がたくさんあったのですが、
『尺蠖(尺取り虫)』は特に強く印象に残りました。
中年の男性が主人公の物語で、
彼は失業してからなぜかゲームにのめり込んでいくんですが、
主人公の状況は僕と同年代の男性にとって、
現実社会で普通に起こり得るシチュエーションだと思いました。
それでまず、この小説をたくさんの人に読んでもらい、感想を聞かせてもらったんです。
感想を聞いてみて気づいたのは、
この作品にもちょっとサスペンス的要素があるというか、
読む人によって物語の受け止め方や感じる部分がかなり違うということでした。

:この物語のどこに惹かれて映画化を決意したのでしょう?
同年代の男性として共感できた、という以外に、
この作品のどんな点に惹かれましたか。

:この小説は同年代の人間として共感できるということではなく、
世代を問わず共感できる部分があると思います。
娘や家族との関係を描いているというだけでなく、
この作品に惹かれるところが多々ありました。
というのは、この物語にはさまざまなコードが隠されているんですよ。
たとえば扇風機だったり、おにぎりだったり。
なぜ彼は部屋に換気扇をつけるのか、なぜ扇風機をずっと見ているのか、
なぜ数字に特別敏感なのか。

この物語は主人公の男性の状態を描くだけではなく、
人間の奥底に潜んでいる部分を描いていると思います。
人間は、なぜかある時期ある特定の物事に取り付かれることがありますよね?
「取り付かれる」状態って人間のかわいらしい部分で、
なぜあの時期に自分はそのことに取り付かれていたのか、夢中だったのか、
理由はよくわからないと思うんです。
でもその理由を突き詰めて考え、1枚1枚、自分の内面をはがして追求していくと、
理由が見つかると思います。
夢中になる、取り付かれるのはその人それぞれの理由が必ずあるはずです。
この作品では、その部分を描いているのが興味深いと思いましたし、
キャラクターの内面の奥深いところまで掘り下げて描かれているので、
キャラクターが立体的で、かつ重みがあります。
読みながら自然に、主人公の男性と自分を重ね合わせることができ、
自分を見つめ直すことができるのです。
たった数千文字の物語に、そんな力があることに驚きました。

:小説の版権をいくつか購入していると聞いていますが、
何をポイントに版権の購入を決めるのでしょう?

:特に版権を購入するために作品を探すということはしていません。
自分が読んで面白いと思った作品について版権購入を考えるだけです。
『尺蠖(尺取り虫)』は僕が購入した2作品目の版権ですが、
購入した後、ちょうど香港国際映画祭から
「監督として短編作品を撮らないか」という話が来たんですよ。
依頼がショートフィルムだったので『尺蠖(尺取り虫)』はピッタリだと思いました。
登場人物が少なく、物語も現代の設定だったので、撮影がやりやすいな、と。
そして村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を
薦めてくれた監督と一緒に脚本を書きました。

(続きます!)

 

interview_prof張震(チャン・チェン)
1976年10月14日、台湾台北生まれの俳優。台湾の名優・張國柱(チャン・グォチュー)の次男。1991年に故・楊徳昌(エドワード・ヤン)監督の自伝的映画「牯嶺街少年殺人事件」でデビュー。最近の作品に王家衛(ウォン・カーワイ)監督の『グランド・マスター』(原題:一代宗師)、新作に侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の『聶隱娘』がある。また第38回香港国際映画祭において3人の俳優がオムニバス形式で監督をした『三生』にて監督デビュー。

 

  1. 妻子ある中年男性が失業を契機に心のバランスを崩していく様子を描いた、現代社会の中産階級の苦悩をあぶり出す秀作。 []