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呉明益(ごめいえき/ウー・ミンイー)

1971年、台湾・台北生まれ。小説家、エッセイスト、国立東華大学中国文学部教授。輔仁大学マスメディア学部卒業、国立中央大学中国文学部で博士号取得。短編小説集『本日公休』(1997年)でデビュー。写真、イラストも手がけた自然エッセイ『迷蝶誌(チョウに魅せられて)』(2000年)、『家離水邊那麼近(うちは水辺までこんなに近い)』(2007年)や、戦時中日本の戦闘機作りに参加した台湾人少年を描いた長編小説『睡眠的航線(眠りの先を行く船)』(2007年)、写真評論・エッセイ集『浮光(光はゆらめいて)』(2014年)などバラエティに富む作品を生み出している。
2003年、2007年、2011年、2012年、2014年に『中国時報』「開巻十大好書」選出、2004年雑誌『文訊』新世紀セレクション選出、2007年香港『亜洲週刊』年間十大小説選出、2008年、2012年台北国際ブックフェア賞(小説部門)など、受賞多数。
長編小説『複眼人』(2011年)は英語版がすでに刊行され高い評価を得た。2015年は最新長編小説『單車失竊記』が刊行される。

著者公式フェイスブック

主な著作とあらすじ、目次

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『天橋上的魔術師(歩道橋の魔術師)』(2011年、夏日出版)

かつて、西門町と台北駅をつなぐ中華路に沿って、「中華商場」というショッピングモールがあった。歩道橋でつながった8棟のビルは、買い物客が練り歩き、老人が軒下で体を休め、子どもたちはその全部を遊び場にした。物売りたちが立つ歩道橋には、いつも魔術師が、マジックを演じながらマジック用品を売っていた。1980年代初頭、小学生だったぼく(と主人公たち)は、よく魔術師にマジックをせがんだ——「本当のやつを見せてよ!」 魔術師が子どもたちに見せたのは“現実の隙間”だった。
中華商場の子どもたちは大人となり、今、自分の人生を決定づけた当時の出来事と、あの魔術師を思い出す。

「九十九階」
20数年ぶりに同級生と会うことになった。彼らは昔から英語の名前で呼び合う。誰がつけたんだっけ? と、小学校の音楽教師のことでしばし盛り上がる。餃子屋の息子・トムと金物屋の息子・マークは中華商場いちばんの仲良しで、ナショナルのネオンがある屋上でよく遊んだ(魔術師の寝床もそこにあった)。そしてトムは、マークが家出したまま3か月も行方不明だった事件を思い出した。家出から帰ってきたマークはトムに告げた。魔術師が教えてくれたマジックで、ある場所に隠れていたんだ……。

「金魚」
学校で参加した、中華民国・双十節(軍事パレードと夜会)をきっかけに二人は幼い恋をした。大人になった彼は、萬華の売春街で彼女と再会する。どうして彼女は、何も言わず彼のそばから去ってしまったのか。「ねえ、魔術師がくれた金魚のこと覚えてる?」二人は20年の空白を埋めるように静かに言葉を交わしながら、かつて中華商場があった道を歩いた。

「歩道橋の魔術師」
歩道橋で靴を売るぼくは、ずっと魔術師に憧れ、その秘密を教えてくれるよう何度もせがんだ。紙から切り出した黒い小人を操る魔術師が最後、ぼくに見せてくれた仕掛けのない、本当のマジックとは? 「このマジックは本当だ。本当だから、言えない。本当だから秘密なんてないんだ」

マジックリアリズムを用いながら、懐かしい幼年期の生活の匂いと、取り戻すことのできぬ時間の流れを、透明感ある文体でしっとり描く10篇の連作短編小説集。映画化予定。

1 歩道橋の魔術師
2 九十九階
3 狛犬は覚えている
4 ギラギラ照りつける道にゾウがいた
5 ギター弾きの恋
6 白い金魚
7 鳥を飼う
8 唐さんの仕立屋
9 光は流れる水のように

※日本語版が刊行されました。

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『複眼人』(2011年、夏日出版)

太平洋に、現代文明にまだ発見されていない原始の島があった。島の人々は、海の神の教えに従って暮らしていた。古いしきたりにより、少年アトリーはたった一人漕船で旅立った。土地も食資源も十分でない島で、次男は生きることが許されない。アトリーの船は、島の人がかつて到達したことのない海域まで達し、食料も水も尽きた。そのとき、アトリーは、見たこともない色と材料(と匂い)のゴミの浮き島を発見し、上陸した。

太平洋で集積した巨大なゴミの浮き島が台湾島に迫る。地震や異常気象、乱開発による水没の危機に瀕していたH県海岸を、ついにゴミの津波が襲った。もうひとりの主人公アリス(台湾人女性)とそしてバーを営むアミ族のハーファン、山岳救助隊リーダーでブヌン族のダハーは、ゴミと海水に流されて家を失い、そんな人生の転換期に彼らは、自らの過去と向かい合う。

大学で文学を教えていたアリスは、夫と息子が山の遭難で行方不明となり(のちに夫だけ遺体で発見)、自殺まで考えたが、台湾に流れついたアトリーと共同生活を送り、彼から原始の島のくらしと神が統べる海の物語を聞くうち、少しずつ息子を失った悲しみから立ち直っていく。そしてアリスは夫と息子の遭難の真実を知るため、アトリーとともに二人が消息を絶った山へ向かった——遭難を目撃していた「複眼人」の正体とは? 深い山中で、まるで複数の自分と向かい合うような哲学的対話が繰り返される。複眼人は言った。「私は誰か? 私は見守る者。そして何にも関わることのない者」

環境破壊が極限まで進んだ近未来の台湾を舞台に、一人の台湾人女性が、台湾原住民族の真理や誰も知らなかった海の神話と出会う。海と山、都市と自然、神話と現代科学、先住民族と漢民族、男と女——複数の視点、複数の価値観、複数の言語で現代社会と人を描いた、台湾でしか生まれえない傑作長編。

第1章
1 洞穴
2 アトリーの夜 →部分訳を読む
3 アリスの夜
第2章
4 アトリーの島
5 アリスの部屋
第3章
6 ハーファンの店——7羽目のSisid
7 アリスの猫——オハィヨー
第4章
8 ウシュラー、ウシュラー 本当に海に出るのかい?
9 ハーファン、ハーファン 下流に向かおう
10 ダハー、ダハー 山へはどの道を使う?
第5章
11 海上の渦
12 もう一つの島
第6章
13 アトリー
14 アリス
15 ダハー
16 ハーファン
第7章
17 アトリーの島の物語
18 アリスの島の物語
19 ダハーの島の物語
20 ハーファンの島の物語
第8章
21 山を抜けて
22 もうすぐ嵐が来る
23 複眼人Ⅰ
第9章
24 海岸の道
25 山の道
26 複眼人Ⅱ
第10章
27 森の洞穴
28 岩壁下の洞穴
29 複眼人Ⅲ
第11章
30 複眼人Ⅳ
31 The Road of Rising Sun

呉明益写真撮影=Chen-Meng-Ping