台湾で書店に行くと、驚くほど日本の翻訳本が出ていることに気づく。
台湾でカフェに行くと、必ず書棚があることに気づく。
出版文化、なんて言い方があるけれど、文化は場所によって違うもの。
——でも、どんなふうに?
台湾で、台湾人による、出版文化について訊いて回った。
どんなふうに本と付き合ってるのか、について。
初回は不況といわれる台湾の出版界でヒットを飛ばす編集者に訊いた。

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編集者に訊く—梁心愉さん(新経典文化・副編集長)

取材・文=田中美帆

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「本日は呉明益先生の新刊発売記念イベントにご参加くださいまして、ありがとうございます」——マイクを手にした梁心愉さんが話し出すと、それまでざわついていた会場は一瞬、静かになった。場所は日本人観光客のメッカ・鼎泰豐の隣にある金石堂書店の1フロア。50人ほどが座れる会場は、開演時間前に満席になっていた。ほとんどの人が発売されたばかりの新刊『浮光』を手にしている。

梁心愉さんはその新刊の著者・呉明益の担当編集者だ。2010年に設立された新経典文化は、いまやヒットを飛ばす出版社として知られる。社員は7人。一人の社員が編集だけでなく営業の役割もこなす。心愉さんの会社で大きなヒットとなった作品は日本の漫画「深夜食堂」シリーズだった。その他にも三浦しをん『舟を編む』『神去なあなあ日常』、冲方丁『天地明察』、貴志祐介『悪の教典』などの多くの日本作品を手がける。もちろん、日本作品ばかりではない。Jonathan Franzen『自由』、張大春『大唐李白:少年遊』、朱天文『荒人日記』など、幅広く扱う。

台湾で書店に足を踏み入れると、どの店舗でも実に多くの日本作品に出会う。小説、漫画、実用書、ノンフィクション、雑誌……ジャンルを問わず多くの台湾人が日本発の作品に触れている。心愉さんは言う。「台湾で出版される本の6〜7割は海外で出版された本の翻訳作品です。残り3〜4割が台湾人自身が書いたもの。実はわたし、2013年が編集の仕事に就いてからちょうど20年なんです。振り返ってみると、先の10年では英語圏の作品が多く、海外と台湾の比率も五分五分でした。あとの10年では、ビジネス書と日本の作品の増加が大きく変化した点です」

それにしてもなぜ、日本作品が増加したのだろうか。「理由の一つに、台湾の読者の変化があります。あまり深い内容の作品は好まれなくなりました。たとえば日本と同じように台湾でもピーター・ドラッガーの作品はすごく売れました。欧米のビジネス理論や経営に関する書籍は、とても深い内容のものが多いです。それに対して日本の書籍は『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』のように、深い理論をわかりやすく説明する内容が多い。そこが台湾の読者に好まれたのでしょう。もう一つは、インターネットです。3GやWi-Fiなどが整備され、携帯を持つ人が増えました。それまで会社帰りにバスで本を読んでいた人たちが、携帯のゲームで遊ぶようになり、それに伴って難しい内容を避けるようになった。なんだか、とても残念だなあと思うんですけどね」

とはいえ、台湾で出版される書籍が減っているわけではない。2009年時点で出版社の数は9,000社を超え、出版点数は約4万3,000点強とされる。ちなみに日本は2012年で約7万8,000点の新刊が発売されている。人口は日本の約6分の1とすると、決して少なくない点数が出版されている。心愉さんは言う。「出版される本がどんどん増えていることで、本を手にとってもらえる確率はぐっと下がっていると思います。書店で読み手に出会う機会は一度あるかないかと考えていいのではないでしょうか」

だからこそ、販促活動にも力を入れる。呉明益の新刊『浮光』では、カメラマンが撮影した写真でハガキやポスターを作り、発売直後にイベントを行った。「編集って地味な仕事ですよね」と笑った。

(続きます!)