中国語の「達人」はその道のプロ。
ご案内いただくのは台北在住歴15年になる台湾在住フリーライターの片倉真理さんです。
雑誌のコーディネートはもちろん、各種原稿執筆で、毎日お忙しい片倉さん。
何事かを紹介する原稿を書くには情報収集は欠かすことができません。
新旧の流れを感じさせる1冊をご紹介くださいました。

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カフェから眺める台北の風景

文=片倉真理

2005年ごろからだろうか、台北にはセンスを競ったカフェが目立つようになった。私が台湾に暮らし始めた15年ほど前は、コーヒーそのものが高価な贅沢品で、おしゃべりが楽しめるカフェというものは少なかった。今では随所にカフェが誕生しており、その数の多さに戸惑いを覚えてしまうほど。路地裏を探索してみれば、かなりの確率で個性的なカフェとの出会いが楽しめる。


台湾におけるカフェの歴史は半世紀前に遡る。日本統治時代にもカフェはあったが、当時、コーヒーは高級嗜〔し〕好品であり、あくまでも富裕層が楽しむものだった。老舗として知られる大稲埕の波麗路(ボレロ)1や西門町の明星咖啡2は文化人や芸術家が集うサロンの役割も担っていた。

その後、経済成長とともにコーヒーの愛好家は増えていった。転機となったのは1990年代初頭に日本資本の真鍋やドトールなどのチェーン店が登場したことだった。1998年にはスターバックスが進出。ここでもちょっとしたブームが起こった。


この数年で急増しているのが個人経営のこだわりカフェだ。豆を厳選し、焙煎や淹れ方を探究する。そして、インテリアやデザインに工夫を凝らしたりして、個性を競い合っている。こうしたカフェのコーヒーは1杯150元前後(約450円)と、台湾の物価を考えれば必ずしも安くはないのだが、どこもかしこも盛況を極めている。今やガイドブックや女性誌などでも取り上げられ、「台北カフェめぐり」は旅のテーマとしても定着している。

そんな台北のカフェを惜しみなく紹介しているのが、2011年に出版された『台北咖啡印象』だ。著者の水瓶子氏は台湾の歴史や文化に造詣の深い人物で、自らも日本統治時代の老家屋を再利用した喫茶&文化スペース「青田七六」3の経営に携わっている。また、世界を巡る旅人でもあり、旅の魅力や出会った人々、風景などをFacebookブログで発信している。

本書で取り上げられているのは50軒のカフェ。「老舗カフェ」や「焙煎にこだわる店」「内装に凝った店」「窓から眺める風景が美しい店」などの項目が立てられている。本書は単なる案内本としてだけではなく、台北の街角観察の視点も盛り込まれている。カフェの片隅に身を置き、オーナーや常連客のやりとりを楽しむ。そういった姿を描くことでカフェに漂う「空気感」を巧みに伝えている。

前書きには「見知らぬカフェに入るのは旅と同じ。別次元に足を踏み入れたような感覚になる」という記述がある。水瓶子氏は少なくとも週に一度はカフェに赴き、そこで感じたこと、考えたことを書き留めているという。カフェで再発見する自分自身の姿。そんな楽しみも本書は教えてくれる。

台北のカフェにはゆるやかな時が流れている。何時間居座っていても、急かされることはまずないと言っていい。それぞれが自分のペースで時間を過ごすための空間。それは台北の人たちを観察するのにぴったりの環境だ。ぜひ見知らぬカフェの扉を開けてみよう。そこで繰り広げられている姿に触れるのは、まさに「台湾体験」である。

column#11おすすめの台湾本
水瓶子『台北咖啡印象』(2011年、流行風)

台北の個性派カフェを紹介した1冊。
カフェ探索のガイドブックであると同時に、
台北に暮らす人々のライフスタイルが紹介されている。
写真を多く用い、装丁にもこだわりが感じられる。
中国語がわからなくても手にとってみたくなる。

片倉真理(かたくらまり)
1972年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。女性誌や機内誌などで台湾関連記事の企画・執筆に携わる。共著に台湾生活情報誌『悠遊台湾』『食べる指さし会話帳・台湾』『ことりっぷ 海外版 台北』など。台湾でも『在臺灣,遇見-百分的感動〜片倉真理 旅の手記』などの著作がある。サイト台湾特捜百貨店

  1. 1934年創業。店名は今では珍しくなった右から読み。昔はあまり食されなかった台湾ではこれまた珍しい品、牛タンシチューを扱う。「愛されて100年。祖父の時代から続く懐かしい味」と店のコピーにある。 []
  2. 1949年創業。1989年に一度閉店を迎えるが、その後しばらくして復活。台湾文学を代表する作家・白先勇もこの店の常連で「(台湾の)現代詩、現代小説は店に漂うコーヒーの香りにつつまれながら、ゆっくりと花開いてきたのだ」と語る。以上、公式サイトより抜粋訳。 []
  3. 場所や開店時間などはサイトを参照のこと。 []