台湾で書店に行くと、驚くほど日本の翻訳本が出ていることに気づく。
台湾でカフェに行くと、必ず書棚があることに気づく。
出版文化、なんて言い方があるけれど、文化は場所によって違うもの。
——でも、どんなふうに?
台湾で、台湾人による、出版文化について訊いて回った。
どんなふうに本と付き合ってるのか、について。
台湾の漫画家を日本に売り出す、敏腕プロデューサーに訊いた。           取材・文=田中美帆

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台湾オリジナルを育てる (1)—王士豪さん(友善之地文創開發有限公司・總經理)

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台湾のメディア事情は日本とちょっと違う。日本の在京キー局5局は無料、NHK地上波は月1,310円で観る。他方、台湾ではケーブルテレビが普及しており、月500元(1,500円)ほどで100局が観られる。各チャンネルは、映画、ニュースなど、得意分野はさまざま。漫画だけをとってみても、『SLUM DUNK』『ONE PIECE』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』『ドラえもん』『ちびまる子ちゃん』『クレヨンしんちゃん』など、日本の名だたるアニメが連日放送されている。アニメがこうなのだから、コミックだって推して知るべし。前回ご紹介した編集者、梁心愉さんが担当した日本のコミックは『深夜食堂』だ。2013年、日本の漫画界に一大旋風を巻き起こした『進撃の巨人』の新刊だって、すぐに書店店頭に並ぶ。日本で制作されたコンテンツが届く速度は、年を追うごとにいや増している。

『進撃の巨人』の作者、諌山創さんのサインを求めて、台北に行列ができたのは2014年2月のことだ。台北では毎年2月、国際ブックフェアが開かれる。だがこの年に台北で開かれた会場は例年とは違う点があった。それは、一般書籍とは別で、漫画アニメが独立したフェアを開催したこと。その直後、とある人が時間を割いてくださった。王士豪さんという。事務所に伺ったら「ブックフェアが終わったばかりなので、まだ散らかっているんですけど」と笑顔で通してくださった。この日の取材はすべて日本語。実は海外で日本語を学ぶ人の中には「漫画やアニメを観て覚えたんです」と、学校で習った人からはおよそ出てこない言葉をさらりと口にして本職の日本語教師を驚かせる日本語学習者が少なくない。王さんもきっとその一人だと確信しながら、お話を伺った。

王士豪さん、1976年生まれの37歳。台湾出身の漫画家をマネジメントする会社、友善之地文創開發有限公司の代表だ。「台湾の30〜40代は日本のエンターテインメントで育った台湾のオタク第一世代、といっていいんじゃないでしょうか」と語る。そういえば、以前当サイトで取材した俳優の張震も王さんと同じ30代後半で、日本の漫画の海賊版を読んでいたと明かしている(オタクという意味ではない。念のため)。

90年代の初めまでの台湾は、日本にとってみれば「海賊版が横行する地」だった。これには事情がある。台湾では、1949年から始まった戒厳令が解除される87年まで、権利を主張できるような情勢ではなかった。さらに著作権には、登録主義と無方式主義という二つの考え方がある。85年までの台湾は前者で、登録した人に権利が発生する。それに対して日本ではどのような方式も必要としない、作品の誕生とともに著者の権利が発生するという立場をとる。戒厳令解除からわずか5年後の92年、台湾の著作権法が改訂され、日本と同じ無方式主義になった。今では本も映画もアニメも、しっかりと権利許諾のやり取りを経て、出版されている。

そんな背景も踏まえつつ、今はオタクを自称する王さんが漫画家をマネジメントするに至るまでには、どんなことがあったのか、訊いてみた。

(続きます!)