L0324職人誌_書封正面

仮題:『台湾職人録~52人のマイスター~』
原題:『職人誌』
著者:黄靖懿、厳芷婕
出版社:遠流出版
仕様:A5296ページ、縦組み、カラー、2013101日初版刊行。
カテゴリー:ノンフィクション、イラスト、くらし

読みどころ

 職人すなわち熟練した手工業者のことを中国語で「巧匠」というが、近年台湾では日本語からきた「職人」という言葉もよく使う。本書もしかり。ずばり「職人誌」という架空の週刊紙の体裁を取って、台湾各地の「職人」たちを紹介していく。写真とイラストをふんだんに盛り込んだ、カラフルで楽しいビジュアル本である。

本書の読みどころは何と言っても、台湾全土から様々な分野の職人を取り上げている点であろう。その数は52人にも上る。

 切り紙、凧、陶磁器、彫刻といった伝統的な工芸品から、靴、ズックかばん、蒸籠〔せいろ〕のような日用品まで、内容はバラエティに富む。獅子頭、銅鑼〔どら〕、チャイナドレスといった中華ふうの工芸品もあれば、漆〔うるし〕、畳、日本刀など日本統治時代に源を発するものもある。中華の伝統に日本文化がちゃんぽんになっているあたり、台湾の歴史を反映していて興味深い。

 たとえば本書で最年長の職人である謝錦鐘さん(91歳)は、日本統治時代に生まれ育った刀匠だ。当時台中にあった日本刀店に丁稚奉公して刀造りを学んだが、戦後は一転、そんな過去を隠さねばならなくなった。一時は餅やアイスクリームを売って生計を立てていたが、好きな刀造りが忘れられず、50歳を過ぎてから刃物専門店を開業。すごいのは、ふつうは分業で行う日本刀の鍛冶、研磨、外装の全工程をひとりでこなせるということだ。

 もちろん台湾ならではの工芸品もある。「布袋戯〔ボテヒ〕」という伝統人形劇はその一例だ。父親の後を継いで人形職人になった徐俊文さんは30代とまだ若い。伝統的な人形を作り続けるかたわら、テレビ放映を通じてサブカルチャー的に進化した現代版布袋戯にも注目し、大胆にデフォルメしたちびキャラ人形を創作するなど、伝承を現代風にアレンジして新しく発展させている。

 このほか「門神」(門の扉に貼る魔除けの神像画)、「糊紙」(紙細工の供物)、「剪黏〔ジェンネン〕

(寺廟建築の屋根装飾)など民間信仰に基づく工芸も、台湾の民俗や風習が分かって面白い。

 本書のもうひとつの見どころは、輪郭線を白く抜いたカラー版画のような味わい深いイラストだ。職人たちの作品や工具が、挿絵になって全ページにちりばめられている。圧巻は工房の全景イラストで、ほのぼのとしていながら精緻な描写が、職人たちの仕事場を隅々まで見事に再現している。

 本書の作者は21歳のデザイン専攻の女子大生2人。大学4年次に台湾全土を回って52人の職人を取材し、20万字を超すインタビュー原稿と数万枚の写真をまとめ、2000枚以上の挿絵を描き、1年かけて本書を仕上げたという。新世代の「職人精神」(職人魂)までうかがえるようだ。

 モノづくりニッポンならぬモノづくりタイワンの真髄を、とくとご覧いただきたい。

 
部分訳を読む
 

作者紹介

1479---作者照片---01

黄靖懿(こう せいい/ホアン・ジンイー)

1991年台湾花蓮生まれ、新竹育ち。輔仁大学応用美術学科(ビジュアル・コミュニケーション・デザイン専攻)卒業。大学4年生のときクラスメートの厳芷婕と2人で本書の元となる「職人誌」を制作。2013年に卒業してデザイン関連の仕事に就く。
本書では執筆と挿絵の着色、レイアウトを担当。

1479---作者照片---02

厳芷婕(げん ししょう/イエン・ジージエ)

1991年台湾台北生まれ。輔仁大学応用美術学科(ビジュアル・コミュニケーション・デザイン専攻)卒業。黄靖懿とは1年次から卒業までずっと同じクラス。将来はグラフィックデザイナーや挿絵画家を目指している。
本書では挿絵と写真撮影を担当。

 
 

目次

推薦の序1 繰り広げられる職人文化
推薦の序2 頑固なねばり強さ

<台湾北部>
新北市
1 切り紙細工職人:李煥章
2 毛筆職人:陳耀文
3 サンゴ彫刻職人:黄忠山
4 太鼓職人:王錫坤
5 樹皮細工職人:李永謨
6 日本刀職人:謝錦鐘
7 陶磁器職人:許朝宗

台北市
8 「糊紙」(紙製の供物)職人:林我副
9 提灯職人:張美美
10 荷印(シッピングマーク)職人:林柏占
11「門神」(魔除けの神像画)職人:劉家正
12 鍛冶職人:謝次郎
13 凧職人:謝金鑑

宜蘭県・市
14 銅鑼職人:林烈旗 部分訳を読む→ 
15 竹工芸職人:簡添盛・簡斈儒
16 刺繍職人:李文河
17 「春仔花〔ツゥアフゥ〕」(婚礼の髪飾り)職人:陳恵美
18 下駄職人:林文樹

新竹市
19 ガラス細工職人:黄安福

<台湾中部>
苗栗県
20 蛇窯〔じゃがま〕(登り窯の一種)職人:林瑞華
21 竹籠職人:張憲平
22 い草工芸職人:盧来春
23 木魚職人:李隆彰
24 木彫り鴨(デコイ)職人:湯日耀

台中市
25 漆〔うるし〕塗り職人:頼作明

南投県
26 紙漉〔す〕き職人:黄煥彰

彰化県・市
27 卵殻彫刻職人:簡長順
28 獅子頭職人:施竣雄
29 扇子職人:陳朝宗
30 家具修理職人:徐坤潔
31 「土黏香〔トレンバン〕」(伝統人形劇の人形玩具)職人:徐智雄
32 立体刺繍職人:許陳春
33 香り袋職人:周月容
34 錫〔すず〕工芸職人:陳志昇
35 神像彫刻職人:呉翔宇
36 飾り窓枠職人:陳輝煌
37 硯〔すずり〕職人:董坐

雲林県
38 「布袋戯〔ボテヒ〕」(伝統人形劇)人形職人:徐俊文
39 張子〔はりこ〕神像職人:蔡爾容

<台湾南部>
台南市
40 刺繍靴職人:李東志
41 チャイナドレス職人:鄭道瑩
42 帆布(ズック)職人:許勝凱
43 銀帽(銀製の頭飾り)職人:林盟修
44 仏画職人:頼俊栄
45 レンガ彫刻職人:王郭挺芳
46 畳職人:李宗勲
47 竹彫刻職人:李先明
48 木桶職人:王開弘、王炳文兄弟
49 玉〔ぎょく〕彫刻職人:黄福寿
50 「剪黏〔ジェンネン〕」(寺廟の屋根装飾)職人:葉明吉
51 寺廟彫刻職人:蔡徳太

高雄県
52 急須彫刻職人:盧志松

著者あとがき

180195

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文・訳=阪本 佳代(さかもと かよ)

東京外国語大学中国語学科卒、東京大学大学院経済学研究科中退。産経新聞記者を経て、現在フリーランスの翻訳者・ライター。2006年から3年間台湾で暮らす。共著に『毛沢東秘録』(扶桑社)。目下、話題の台湾映画のコミカライズ本『KANO1931海の向こうの甲子園~()』(翔泳社、近刊)を制作中。