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台湾きってのイケメン監督の戴立忍(ダイ・リーレン)、彼は監督として活躍するだけでなく、俳優・脚本家・編集技師・レーサーなど様々な顔を持つ偉才です。小さい頃から大量の本を読み、本は“私の片方の翼”と形容するリーレンさんが語る台湾・中国書籍の世界をどうぞお楽しみ下さい。

取材・構成=西本有里、映画スチール写真提供:華聯國際

も:では台北の大学に進んだ後、読書傾向に何か変化はありましたか?

リ:台北の生活は台東や高雄と全く異なるものでしたが、読書傾向に変化はありませんでした。しかしやはり映画鑑賞における変化が大きかったです。高雄ではアートフィルムというものを見る機会がなかったので、大学に入学して、これまでの人生で触れた事がなかったジャンルの作品を大量に見る事になりました。

あの頃私の大学時代の部屋にストックしたVHSテープは、大学の図書館にある量を凌駕するものでした。当時の台湾における個人のVHSテープ所有量において、私は多分3位以内に入っていたと思います。1600~1800本ぐらいのテープを本棚三面にぎっしり詰め込んでいました。

 

も:この作家の本は必ず読むという好きな作家はいますか?

リ:はい、ガルシア・マルケス(中国語名:馬奎斯)です。また台湾作家では駱以軍1 の本は必ず読んでいます。彼は私の親しい友人で、新作が出ると必ず送ってくれるのです。でも私は彼と友人になる前から彼の作品のファンで、初期の作品からずっと読み続けていました。

私は成長の過程で台湾文学のうねりを見てきた世代です。70年代に台湾郷土文学論争2 が起こり、それまで疎外されてきた作家の黄春明3 たちが主流に躍り出ました、映画にも同じような事が起こったと言えます。私は自分の読書遍歴をきちんと整理して来た訳ではないので、今からお話しする事が正しい台湾文学の歴史と言えるかどうか分かりませんが、私の記憶において台湾文学には2つの派閥がありました。

 

一つは台湾というこの土地に根ざした作品、もう一つは朱天文4 、朱天心5 、張大春6 に代表される外省人作家の作品です。外省人作家の作品の多くは、彼らが育った眷〔けん〕村(外省人が居住する地区の事)や我々が実際に体験していない故郷“中国”を描いていますが、これらの作品群は1990年代中旬あたりに勢いがストップした印象を私は持っています。

彼ら外省人作家たちは、両親の世代に台湾へ渡って来た異邦人視点での台湾を描き、これらの作品が台湾においてメインストリームの作品として扱われてきました、主流意識を持った作品ですね。しかし台湾本土意識が台頭し、ある時期を境に自分達の作品をいかに引き継げばよいのか分からなくなったかのように停止します。それは民進党が躍進を遂げ、陳水扁が台北市長となり、台湾全体における台湾本土意識が主流に躍り出た時期です。

しかし彼ら外省人は台湾というこの土地に確固として存在し続けており、誰が彼らの物語を引き継ぎ語ってくれるのか…、十年近く途切れたかに見えた外省人文学を最も美しく引き継いだのが駱以軍だと私は思います。彼の作品は、外省人の人々が現代台湾社会、特に都会にていかに存在するかを描いており、彼の表現方法・文体・視点は以前の外省人作家とは大きく違っています。

数年前の作品になりますが、彼の最新作である上下巻の長編『西夏旅館』は、小説の舞台を西夏旅館というホテルに設定しています。そこには世界各地からやって来た人々が集まり、それぞれが昔の思い出を語り、西夏ホテルで起こる出来事を描いています。彼はこの作品で私のような外省人第二世代を明確に定義してくれました。

私の父は1949年に中国を離れ、インドへ渡り、その後台湾にやって来た外省人、そして私の母は台湾生まれの台湾人(本省人)です。私はいわゆる“芋頭蕃薯” (オアハンジー:芋頭はタロイモ、蕃薯はサツマイモの事。台湾は島の形がサツマイモに似ているのでサツマイモが台湾、タロイモは中国を指す)ですね。祖先がどこの人であろうと、台湾人であれば、この本の登場人物の中に自身と似た影を持つ人物を見つける事が出来ます。_D7K9500

駱以軍自身も外省人家庭で育った人間で、彼は初期の作品からずっと自身のルーツを探し、書き続けている作家だと思います。これは非常に重要な事で、もし自分自身がどこから来たのかが分からなければ、どこに向かって進むべきなのかは永遠に見つかりません。国民党支配を長く受けてきた台湾は、台湾人とは何か、自身のアイデンティティーを未だ模索し続けているのです。

駱以軍は文学、小説という形でアイデンティティーの模索を表現する素晴らしい作家だと思います。彼の作品に私は強く共鳴しています。また彼は文章密度が非常に高い作家で、一つの文章の中に異なる3つの意味を込めて書く事もあります。創作には現実の生活と強い結びつきがなければいけません、反省から発生した視点、批判、この部分においても彼の作品は素晴らしいと思います。駱以軍は張大春を代表とする1990年代にマジックリアリズムを駆使した作家の派閥から出て来た作家です。しかし駱以軍は1990年代に確立した台湾マジックリアリズム技巧をまた別の方向に転換させた作家であると思います。彼が行ったこの転換は、台湾という土地に根ざした形で形成されたのです。

 

も:深いです…、リーレンさんから台湾文学史の講義を受けさせて頂きました。ありがとうございます。

リ:いえいえ、私の話した内容はとてもラフなものですし、私自身が読み、感じた事を話しただけです、個人的な感想として聞いて下さい。 (続きます!)

 

戴立忍(ダイ・リーレン) 1966年7月27日、台湾台東県生まれ。
国立台北藝術大学を卒業後、テレビドラマ「冬陽」で俳優デビュー。その後様々な作品に出演を重ねる。代表作に「月光」、「停車」、「ザ・ホスピタル(原題:白色巨塔〜The Hospital〜)」などがある。2009年に発表した「あなたなしでは生きていけない(原題:不能沒有你)」において監督、脚本、編集を担当し、台湾だけでなく各国の映画祭で賞を獲得した。
俳優としての最新作は、現在台湾で公開中の映画「寒蟬效應」。

  1. 駱以軍〔らくいぐん〕。1967年、台北市生まれの台湾作家。大学二年生で張大春の現代小説課程を受け、師事する。1993年に短編小説『紅字團』(聯合文学)を発表、この作品で聯合文学小説賞を受賞する。2000年に発表した『月球姓氏』(聯合文学)は年間良書10作に選ばれる。2008年に発表された最新作『西夏旅館』(印刻文學)は香港の文学賞「紅樓夢-世界華文長篇小説獎」を受賞した。 []
  2. 優秀な台湾の作家を表彰する台湾文学賞が1966年に呉濁流により設立され、その後1977年に葉石濤が『台湾郷土文学史如導論』にて台湾の歴史と文学の発展史をたどりながら台湾文学の特殊性を書き、中国文学と明確な区別を行った。1970年代以降に発表された台湾の生活の現実を描写した作品を総じて台湾郷土写実文学と呼ぶ。これらの作品は台湾の都市、農村経済、社会問題、価値概念を作品に反映させると共に深化させたものであり、台湾独自の文学分野が成立したと称されている。 []
  3. 黄春明〔こうしゅんめい〕。http://motto-taiwan.com/2014/06/hybrid-4/ []
  4. 朱天文〔しゅてんぶん〕。1956年、高雄鳳山生まれの作家。著名な小説家である外省人の父と、日本文学翻訳家である本省人の母を持ち、二人の妹も小説家という文学一家で育つ。中山女子高校時代に初めて小説を発表し、淡江大学英文学科在学中に三三書房を設立。『小畢的故事』を発表したことで映画監督侯孝賢と知り合い、彼の映画の脚本を手掛けるようになる。「童年往事」「冬冬の夏休み」「悲情城市」「珈琲時光」など、ほとんどの作品に脚本家として参加している。 []
  5. 朱天心〔しゅてんしん〕。1958年、高雄鳳山生まれの作家。朱天文は姉。中学の頃から作品を台湾の新聞社中国時報で発表し始める。日本では1997年度「中国時報」年間良書10作、「聯合報」最優秀図書賞などを受賞した『古都』が2000年に国書刊行会より出版されている。 []
  6. 張大春〔ちょうだいしゅん〕。1957年、台北市生まれの台湾を代表する作家。小説、エッセイを執筆する以外に評論、作詞も行う。李白を主人公とした『大唐李白:少年遊』(新經典文化、2013年)『大唐李白:鳳凰樓』(新經典文化、2014年)は台湾でベストセラーとなっている。 []