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台湾きってのイケメン監督の戴立忍(ダイ・リーレン)、彼は監督として活躍するだけでなく、俳優・脚本家・編集技師・レーサーなど様々な顔を持つ偉才です。小さい頃から大量の本を読み、本は“私の片方の翼”と形容するリーレンさんが語る台湾・中国書籍の世界をどうぞお楽しみ下さい。

取材・構成=西本有里、映画スチール写真提供:華聯國際

 

も:今日は自身がお好きな本を数冊持って来て頂いていますが、紹介して頂けますか?

リ:ではまずガルシア・マルケスの『百年の孤独(中国語名:百年孤寂)』から。これは私のベスト1といえる小説で、今までに7回以上読み返しています。もちろんスペイン語の原文は読めないので、翻訳本を読むしかない…という悔しさがあります。『百年の孤独』は読者のイマジネーションを豊かに膨らませる力があり、また自身が暮らすこの土地と共鳴しあう素晴らしい作品です、小説とはこうあるべきだと思います。

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1980年代末期から彼のマジックリアリズム手法は台湾文学に大きな影響を与え、現在台湾で活躍している若手作家もこの手法を駆使しています。駱以軍の作品にもガルシア・マルケスと共通する文学性を感じます。そうそう、『西夏旅館』は香港の文学賞、紅樓夢獎1 を受賞しています。

 
 

も:日本の作家や映画監督で好きな方はいらっしゃいますか?

リ:川端康成や三島由紀夫の作品は好きでよく読みます。三島由紀夫は台湾でも興味を持っている人がとても多い作家の一人です。彼の作品はある極致に達した作品と言えるでしょう。彼の作品をすべて読み切ったかどうか分かりませんが、一番好きな作品は『潮騒』です。また、『川端康成・三島由紀夫往復書簡』は非常に興味深い書籍ですね。三島由紀夫の当時の考え方や創作に対する心情が理解出来る大変貴重な本だと思います。

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それ以外の作家ですと、村上春樹さんの作品はすべて読んでいます。よしもとばななさんの作品で『キッチン』など数作好きな作品があります。

そう言えば今思い出したのですが、中学の時に宮本武蔵が著した兵法書『五輪書』を読みました。中学の時私はテコンドーをやっており、高校では高雄市のテコンドー代表チームに入っていましたので、その関係もあって武術関連の書籍を色々読んでいました。初めて読んだ日本の書籍は確か『五輪書』だったと記憶しています。

映画監督では好きな監督がたくさんいます。黒澤明監督、小津安二郎監督、あと伊丹十三監督の作品が大好きです。そして北野武監督は彼の映画スタイルが好きです。日本の監督で特に好きなのは伊丹十三監督、彼の「タンポポ」は大好きな作品です。私は台東の田舎で育ったので、あちこちに日本建築が残されていました。日本映画から懐かしさを感じるのはその為かもしれません。あと山田洋次監督の時代劇シリーズはどの作品も素晴らしかったです。

も:リーレンさんは様々な分野の才能をもつ方で、詩の創作を始めとして、脚本家でもあり、監督もされ、編集もされる上に、素晴らしい役者でもあります。これらの役柄の中で一番好きなのはどれですか?

リ:編集です。もしある人の才能を評価する上で賞を受賞する事を一つの基準とするならば、編集において私は一度も賞を獲った事がないのですが…。編集は文章を書く事に一番似ています。編集とは“モンタージュ”(映画用語:視点の異なる複数のカットを組み合わせて用いる技法の事)ですよね。やっている仕事は昔の活版印刷技師のようなものかもしれませんが、編集には構成を含め自分の意志や考え方を込める事ができます。活版印刷技師とは違い、自分の創造したい小説を文字で新しく組み直す事が出来るのです。

編集には再創造、リクリエイトという重大な仕事がかかっており、映画という芸術において、核心を担う仕事だと思っています。何故ならそれまで行って来たすべての仕事、演技・撮影・録音はすべて編集を行う為になされた行為だからです。映画における化学変化はすべて編集で起こります。私は編集という仕事にものすごく魅せられているのです。

またもう一つ編集が好きな理由に自分一人で仕事ができる事があります、私は人とコミュニケーションをとるのがあまり得意ではないので、一人で小さな編集部屋にこもって何ヶ月でも仕事ができるのは何よりの喜びです(笑)。前回の映画では編集作業に8ヶ月かけました。

編集は、絶え間なく真実の自分と誠実に向き合う過程です。撮影をしている時や脚本を書く時はこの手法を用いる事で観客を驚かせてやろうとか、人を説得してやろうといった面で考える訳ですが、編集作業に入ると、否応なく自身と真剣に向き合う必要に迫られ、なぜあの時こんなバカな事をしたのだろう?なぜこんな思い上がった方法をとったのだろう?と思う事が多々あります。自身との対話を通して、自分が最も触れたくない部分に向き合い、弱さをさらけ出さねば終わらない作業ですね。

私が8ヶ月間部屋に籠って編集していたときの経験を聞いた友人の作家達は、私が体験した状況は自分が小説を書くときの状況と非常に似ていると言いました。誇張された自身、水増しした虚構の自分、ナルシストな自分の皮を一枚一枚削ぎ落としていく作業、それがあって初めて本来の自分の作品を掘り出す事が出来るのだと思います。_D7K9795

小説家の方は小説を書いているときは一度地獄に堕ちると言いますよね、小説のあらゆるキャラクター、あらゆる感情、あらゆる状況に真摯に向き合ってそこから這い上がる作業が発生している、それは映画編集も同じです。脱皮…ですね。あの8ヶ月の編集において私は一度死んだと言えます。そして墓場から再生した…、言葉では表現出来ない苦しみがありますが、あの感覚は忘れられません。小説家の方々も一作書く毎に同じような感覚を味わっているのかもしれません、そしてその体験に取り憑かれてしまうのかも。私ももう一度あの地獄に堕ちて、自分の中から何かを引き出してみたいです。 (続きます!)

戴立忍(ダイ・リーレン) 1966年7月27日、台湾台東県生まれ。
国立台北藝術大学を卒業後、テレビドラマ「冬陽」で俳優デビュー。その後様々な作品に出演を重ねる。代表作に「月光」、「停車」、「ザ・ホスピタル(原題:白色巨塔〜The Hospital〜)」などがある。2009年に発表した「あなたなしでは生きていけない(原題:不能沒有你)」において監督、脚本、編集を担当し、台湾だけでなく各国の映画祭で賞を獲得した。
俳優としての最新作は、現在台湾で公開中の映画「寒蟬效應」。

  1. 2005年に香港浸會大學文學院が設立した文学賞、30万香港ドルを賞金として用意し、中華圏の作家と出版社を讃える目的で設立された。駱以軍は台湾人作家として初めてこの賞を受賞した。 []