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台湾きってのイケメン監督の戴立忍(ダイ・リーレン)、彼は監督として活躍するだけでなく、俳優・脚本家・編集技師・レーサーなど様々な顔を持つ偉才です。小さい頃から大量の本を読み、本は“私の片方の翼”と形容するリーレンさんが語る台湾・中国書籍の世界をどうぞお楽しみ下さい。

取材・構成=西本有里、映画スチール写真提供:華聯國際

 

も:では、あなたにとって本はどのような存在ですか?

リ:本が私に与えてくれた影響は映画と同じくらい大きいです。この世界を知る事、自分自身で体験出来ない事を本と映画を“読む”事で知りました。もし本がなければ私の世界はもっともっと狭いものになっていたと思います。もしかすると40%ぐらいの世界になっていたのではないかな…、そしてもし映画がなければ、私の世界は10%ぐらいになってしまっていたでしょう。

本と映画は私の右と左の翼のようなもの、私のイマジネーションを羽ばたかせてくれる重要な役割を担っています。もし片方の翼がなければ、私の飛翔はめちゃくちゃなものになっていたでしょうし、もし両方の翼がなければ、私は地上を歩く事しかできなかったと思います。

 

も:では最後の質問です。リーレンさんが日本の読者の方々に推薦したい本をご紹介下さい。先ほどご紹介頂いた『西夏旅館』以外に推薦したい本があれば何冊でもご紹介下さい。

リ:そうですね、『西夏旅館』以外に推薦したいのは、『大日壇城』1 です。この本は徐皓峰2 という中国の監督が書いた本です。徐皓峰が書く本はほとんどが武俠小説なのですが、彼の書く武俠小説は、かなり現実生活に密着した非常に珍しいタイプの武俠小説です。IMG_3407

今までに彼の本は数冊読んでいますが、初めて読んだ『逝去的武林:1934年的求武紀事(死に行く武林:1934年の武術録)』3 は口述小説というのでしょうか、形意拳4 の達人である老人にインタビューをしてその内容を筆記した本です。

中国武術が最も発展した時期は民国20〜30年代(西暦1930〜1940年代)です、中国政府が積極的に中国武術を推進していたこの時期に、中国では様々な流派が生まれました。そして『逝去的武林』の語り部である形意拳の達人の老人は、形意拳とは何か、彼が武術の訓練を積む中で感じた事、彼が体験したあの年代の状況や彼の師匠について、またあの時代の武林(武俠小説において使われ、武術を身につけた者たちが所属する社会を指す)の人々が如何に生きていたかを語るのです。

この本は小さい頃からずっと武俠小説を読んで来た我々にとってはあまりにも貴重です。愛読して来た武俠小説の世界は何もかも想像でしかないのか、と思っていた訳ですが、この本によって実際の武俠世界が如何に存在していたのかを知る事が出来ました。口述によって記録されたこのような本は非常に貴重です、口述で記録された本であれば、事実を誇大化する事もない訳ですから、信頼出来ますし、歴史的価値があります。この本を読んでから、徐皓峰という人物に注目するようになりました。

またこの本を読む前に実は「刀のアイデンティティ(原題:倭寇的踪跡)」5 という映画を見た事があり、その映画がとても面白くて印象に残っていました。その時はまだ本と映画を繋ぎあわせて考えていなかったのですが、昨年「グランド・マスター(原題:一代宗師)」を見て初めてリンクしたのです。「グランド・マスター」は『逝去的武林』を元にしているに違いないと思ったからです。でも映画を見た当時は繋がらず、ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の作品なのになぜこんなに近いものを感じるのだろう…と不思議に思っていました。その後ある日友人と話している中で、徐皓峰の話になり、彼が「グランド・マスター」の脚本に参加していた事を知り、そこで初めてすべてが繋がりました。

徐皓峰は現代中国語文学の中で独特な位置にいる作家だと思います。彼の親族に武術家がいるのかは分かりませんが、中国武術に関する彼の考察・見解はとてもユニークです。

話しを戻して私が推薦する『大日壇城』についてですが、この小説の時代背景は1930年代~40年代に設定され、日中戦争をバックグラウンドとしています。また、この小説には中国と日本、両国の要素が組み合わされており、中国の要素は中国武術、日本の要素は囲碁としています。

中国の囲碁の天才が日本の囲碁協会に招かれて日本へ行き、囲碁の天才に育て上げられるというお話です。この小説で徐皓峰は中国武術と囲碁を完全に融合し、物語として昇華させています。私自身は囲碁についてあまり知識は持っていないのですが、中国武術とうまく融合させてあるため、非常に楽しめました。ですから囲碁をよく知る日本の方々にこの小説を推薦したいです。

 
も:また驚いた事に、徐皓峰さんはとてもお若いのですね。

リ:そうなんですよ!確か彼はまだ40代前半ですよね?私も『逝去的武林』を読んだ時、作家の方は60歳以上のお爺さんだろうと思っていたのですが、作家がまだ30代の若者である事にとても驚きました。彼は北京電影学院の監督科を卒業した後、田舎に戻って農作業をしながら本を書き始めるのですよ。そしてその本がベースとなり「グランド・マスター」に繋がる訳です。「グランド・マスター」には脈々と徐皓峰の血が流れています。

「グランド・マスター」を撮影する際、ウォン・カーウァイ監督はたくさんの武術家や武術研究者を訪ねています。様々な人に話を聞いてもなかなか自分が欲する感覚に出会わなかった、しかし徐皓峰に出会い、彼と話をする中でこの人なら任せられると思ったのでしょうね。人から聞いた話ですが、脚本はほぼ徐皓峰が書いたと聞いています。台詞まわし、キャラクター設定から徐皓峰のものだと感じられる部分が多々あります。チャン・ツィイー(章子怡)が演じた宮二と彼女の父を殺した弟子の馬三の関係等、すべて『逝去的武林』から来ています。

また先ほど話をした徐皓峰の映画「刀のアイデンティティ」ですが、武俠映画でありながら日本映画の雰囲気を持った作品です。日本の監督が撮った作品のようだと感じます。戦い方がチャンバラ的であり、歌舞伎的、そして映画全体として見ると、能を感じます。武術の天才が主人公なのですが、なんと主人公は西域から来た船に乗った娼婦なのです。

語られるテーマは明の戚継光6 が日本刀に対抗する為に長刀を作り、その長刀で新流派を興す訳ですが、戚継光は亡くなり、彼の後を支える二人の部下が戚継光の新流派を北京で更に発展させようと考えます。しかし部下達は朝廷と争いになってしまい、逃げる途中で武術等一切習った事のない娼婦に出会い、その娼婦にどのように長刀を操るか教える訳です。

何も知らない娼婦は船に向かって戦いを挑んで来る中原の武術家達をドンドン倒してしまうという皮肉なエピソードが盛り込まれています。非常に面白い映画です、是非見て下さい。彼の2作目を見たいのですが、まだ見られていません。確か「箭士柳白猿(ジャッジ・アーチャー)」7 という作品です。今彼は三作目の映画を撮っていると聞いています。徐皓峰の小説、映画はお薦めですから是非見て下さい。

友人と語りあっている時に出た話題ですが、この世に生きている人は最低一冊の中編小説を書くべきだと思っています、文字からあなたの友人や子孫があなたを一歩踏み込んで理解する事が出来ますからね。私ももう少し年を重ねたら自分の本を書いてみようと思っています。

 

戴立忍(ダイ・リーレン) 1966年7月27日、台湾台東県生まれ。
国立台北藝術大学を卒業後、テレビドラマ「冬陽」で俳優デビュー。その後様々な作品に出演を重ねる。代表作に「月光」、「停車」、「ザ・ホスピタル(原題:白色巨塔〜The Hospital〜)」などがある。2009年に発表した「あなたなしでは生きていけない(原題:不能沒有你)」において監督、脚本、編集を担当し、台湾だけでなく各国の映画祭で賞を獲得した。
俳優としての最新作は、現在台湾で公開中の映画「寒蟬效應」。

  1. 中国で2010年に作家出版社より出版された。 []
  2. 徐皓峰〔じょこうほう〕。1973年生まれの武侠小説家、映画監督、脚本家。“硬派武侠小説の第一人者”と称され、これまでに8冊ほど著書を発表している。2013年の王家衛監督作品「グランド・マスター」では脚本及び武術顧問を務めた。 []
  3. 2006年に當代中國出版社から出版され、3ヶ月で3万冊発売するヒットとなった本。 []
  4. 形意拳〔けいいけん〕は、太極拳、八卦掌と共に、内家拳の代表格とされる中国武術。見栄えのする大技が少なく、非常にシンプルな外見をしているのが特徴。 []
  5. 2011年に発表された徐皓峰監督作品。流行のスタイリッシュなカンフーものとは一線を画す、武道哲学に基づく硬派な本格武侠映画。日本では2012年の大阪アジアン映画祭にてコンペティション部門に選出されている。 []
  6. 戚継光せきけいこう〕は中国の明代の武将。倭冦及びモンゴルと戦ってともに戦果を挙げたことからその名を知られる。竜行剣という剣法の開祖としても伝えられている。 []
  7. 中国では2014年8月に公開された作品。中華民国成立のその年、様々な武術流派が主権を争っていた混乱期、リーダーたちは武術に長けた者たちを自分の流派へ誘い込んでいた。武術流派間の揉め事を仲裁する“ジャッジ・アーチャー”である柳白猿も次第にその争いの中心へと巻き込まれていく…。日本では2014年10月に開催された2014東京・中国映画週間にて3度上映された。 []