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番外編「私を誠品書店に連れてって」

誠品書店松菸店(松山文創園区)

 文=天野健太郎

誠品書店もびっくりするくらい有名になった。

昔は座り読みのメッカとして紹介されるくらいであったが、今では代官山蔦屋書店の先取りとまで言われ、訪れる日本の出版人も多い。そんな誠品が本拠地台北に8月オープンしたのが松菸店である。

松菸(煙)とは、松山煙草工場の略だ。MRTを下りて国父記念館を背に、工事現場に沿って北上し、次の交差点を右折すると古びた倉庫が見えてくる。敷地に入ればさらに古い大学のような、がっしりした二階建ての建物が待ち構える。ここでは1998年まで「長寿」などの煙草を製造していたのだ。長い廊下を歩けば、木枠でネジ式錠の窓が美しい。現在ここは松山文創園区(カルチャー&クリエイティブパーク)として、1937年築の建造物や施設を保存しつつギャラリー・展示場として使われている(ドラえもん展もここでやった)。

そんなレトロ空間の向こうにひときわ大きく、ひときわ新しい高層ビルが弧を描く。見た目はでかいが、実は書店は3階だけで(吉田修一もここでサイン会をした)、それ以外はショッピングモール、ホテル(現在開業準備中)などである。これこそ台湾人が「誠品書店でなく誠品百貨店だ」と揶揄する所以ではあるが、観光で訪れるなら、コジャレたショップを眺め、地下レストラン街をひやかすのもまた楽しい。ハイセンスなフロアで「滷味(台湾スパイスのいろいろ煮)」の匂いを全身に浴びながら歩けば、単館系シアターもある。そこまでシニカルになる必要もない。

書店フロアにつくと、クッキングスタジオのように新刊とベストセラーが平台にずらり並ぶ。当然ながら日本書籍の翻訳ものが目につく。が、文学や歴史、ライフスタイルなどジャンルごとの本棚の前に立てば、さすがしっかりした品揃えで、かつ探しやすい(台湾はそこそこ売れた本でも1年後には本棚になかったりするが、ここはまだマシ。ちなみに日本と違って文庫というシステムはありません)。系列他店と比べ通路が広く(ベビーカーも平気)、棚もゆったりかつ背板を抜いてあるから圧迫感がない。ところどころベンチがあり、さすがに地べたに座って読んでいる人はいなかった。

ワンフロアぐるっと回ってもそんな広くないし、本棚の合間に台湾茶や雑貨のショップが交じる。中国人観光客がやたら多い信義店(や本気の本読みが集まる敦南店)に比べ、普通の地元民が多かったので、気安く見物できると思います。中国語がわからなくても、多彩な台湾書籍に触れていただけたら(そして日本で翻訳書を買っていただけたら……)。

ただ目玉(?)であるアナログレコードコーナー(ハマ・オカモトもここを訪れた)には粘着質のマニアがひとりいらっしゃいました。

本文は『な~るほどザ台湾』201312月号掲載を加筆・修正したものです。

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プロフィール

天野健太郎(あまの けんたろう)
1971
年、愛知県生まれ三河人。京都府立大学文学部国中文専攻卒業。2000年より国立台湾師範大学国語中心、国立北京語言大学人文学院へ留学。帰国後は中国語翻訳、会議通訳者。聞文堂LLC代表(ツイッターアカウント「 @taiwan_about 」)。台湾書籍を日本語で紹介するサイト「もっと台湾(http://www.motto-taiwan.com )」主宰。訳書に『台湾海峡一九四九』龍應台著(白水社)、『交換日記』張妙如、徐玫怡著(東洋出版)、『猫楽園』 猫夫人著(イースト・プレス)。『日本統治時代の台湾』陳柔縉著(PHP研究所)。俳人。