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台湾の空から見えるもの

 文=天野健太郎

最近ニュースで、2000メートル以上の高地を棲息地とする台湾最大の野生動物「雲豹(ウンピョウ)」が絶滅したと聞いた。ウンピョウは80年代以降目撃例が途絶えており、今回台湾・アメリカの合同調査チームが屏東・大武山や高雄・大・小鬼湖付近に赤外線カメラなどを設置し、13年間の追跡調査を行ったが、痕跡すら確認できなかったという。絶滅原因は、環境破壊で棲息地が狭められたこととしている。
思い起こせば、「台湾」という土地を認識した最初の記憶は、中学校の理科の先生から、長期休暇はわざわざ台湾へチョウ採集に行くと聞いたことであった。台湾はそんな自然豊かな島であることを、4年以上住んでおきながらすっかり(台北なので住めば住むほど)忘れていた。
もとより台湾旅行をする日本人は多いが、食べ物目当てを100人とすれば、自然に興味を持つ人は1人いればいいところかもしれない。台北・松山空港利用の旅なら、着陸時の(しかも左側窓際の座席からのみ眺められる)陽明山以外自然を見る機会はないのだから、それも当然である。
では、飛行機が着陸せず、そのまま空から台湾を観察したらどうなるのか? そんな妄想を実現したのが、写真集『從空中看台灣(空から台湾を見下ろせば)』である。著者(撮影)の齊柏林〔チー・ポーリン〕は、20年以上空撮で台湾を記録し続けている写真家で、「齊柏林」という名はドイツの飛行船「ツェッペリン号」の中国語名である。本名だったら、それはそれですごい。

写真集で目を奪われるのはまず、東アジア最高峰の玉山をはじめとする雪山や、花蓮・七星潭のマリンブルーの海などだが、実は収録された182枚のうち、美しい自然の写真はごく少数である。
茶畑、レンブー農園、カキ養殖棚などはたしかに自然の恩恵をいっぱいに受けているのだが、それを空から俯瞰すれば、広大な地表にはっきりした人工的な直線が走り、農業・漁業がまさに人の営為の結晶であることがわかる。さらに圧巻は海岸線に沿う開発エリアで、例えば嘉義・東石は、海ギリギリに造成した「ベネチア墓園」が地盤沈下で墓石に貝が付着するほど浸水し、脱塩した開拓農地はいつしかただの湿地となり変わり、渡り鳥の楽園となっている。そして、蘭嶼の放射性廃棄物貯蔵施設は、背後に迫り来る山と三方を囲む群青の海がどこまでも美しい。
台湾の豊かさは、こんな自然(と開発とのせめぎあい)が、家(都市)からすぐ近くに存在していることにあるのかもしれない。

本書はオールカラーかつ大判ゆえ、いいお値段(990元)がするが、フェイスブックの齊柏林「飛閲台灣(空から台湾を読み取る)」で「讚(いいね)!」を押せば、気楽に毎日、台湾・空の旅が楽しむことができる。

※本文は『な~るほどザ台湾』2013年3月号掲載を加筆・修正したものです。

チー・ポーリンが監督・撮影を務めたドキュメンタリー映画
「天空からの招待状(原題「看見台灣」)」が、12月20日より日本で公開されます。
http://www.tenku-movie.com

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プロフィール

天野健太郎(あまの けんたろう)
1971
年、愛知県生まれ三河人。京都府立大学文学部国中文専攻卒業。2000年より国立台湾師範大学国語中心、国立北京語言大学人文学院へ留学。帰国後は中国語翻訳、会議通訳者。聞文堂LLC代表(ツイッターアカウント「 @taiwan_about 」)。台湾書籍を日本語で紹介するサイト「もっと台湾(http://www.motto-taiwan.com )」主宰。訳書に『台湾海峡一九四九』龍應台著(白水社)、『交換日記』張妙如、徐玫怡著(東洋出版)、『猫楽園』 猫夫人著(イースト・プレス)。『日本統治時代の台湾』陳柔縉著(PHP研究所)。俳人。