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『台湾風景明信片 全島巻 上下』張良沢ほか編(国立台湾図書館、2013年)
「日本統治時代台湾はカラーだった」

 文=天野健太郎

以前本欄でご紹介した古書店「舊香居」では、日本統治時代の都市、建築、くらし、産業、などなど幅広い分野の写真を集めた絶版大型本を見つけ購入した。熟読すると、資料的価値は予想以上に高い(収録範囲が広いうえ、台北市内の定番スポットでも初めて見る写真もかなり多い)。なるほどこんな台北、今はもう見れないな、と(翻訳そっちのけで)感慨にふけるが、ただ、いかんせん白黒である。ちょっと飽きてきた。

幸い同時期に、『台湾風景明信片 全島巻 上下』(国立台湾図書館、2013年)を買っていた。台湾文学研究者・張良沢〔ちょうりょうたく〕先生らが収集していた、日本統治時代台湾の絵葉書(主として「内地人(日本人)」向けに発行された)を実寸、色そのままに収録し、中国語で解説を加えた労作だ(当時の日本人向け台湾旅行ガイドも併せて収録)。オールカラーページ、しかもハードカバー、B4判。本気である。
絵葉書は明治末から昭和初期の日本で、自らは見に行けぬ場所や事件を伝えるメディアとして、我々の想像をはるかに超えた大きい力を持っていたそうだ(関東大震災で果たした役割は有名)。つまり戦前、台湾から遠く離れた「内地」にいた日本人は、この南の島の自然、異民族の文化、そして植民地の発展を、絵葉書を通してすでに見知っていたのである。
カラーは美しい。いや、リアルかどうかでいうと、実は白黒のほうがその事実を適切に伝えているかもしれない。が、写真や(その周囲にほどこされた)図案、字体とそのレイアウトは、ありきたりな言い方だが、非常にモダンでシャレている。「台湾の自然」と題されたシリーズは、当時のカラー印刷の稚拙さやその後の退色にも負けず、南国の野蛮な太陽と濃厚な緑をありありと写し出している。また当時の台湾人芸者や水牛、謝将軍(城隍廟に祀られる守護神)など、台湾特有の写真が楽しい。
日本人的に、やはり真打ちは吉田初三郎の『台湾八景』であろう(台湾八景については、拙訳の『日本統治時代の台湾』にエピソードが登場します)。吉田初三郎は戦前人気を博した鳥瞰図の巨匠であり、日本だけでなく1936年に台湾を訪れ、台湾島の鳥瞰図や台湾神社、阿里山、基隆港、日月潭などの美しい風景を上品に描き、とりわけ、淡水の夕景は、船が浮かび街の灯が映る水面を描き、とても風情がある。本書はそのカバーと八景を完全収録し、矢崎千代二などほかの画家の作品とともに、写真では描ききれぬ風景が、現代の我々を魅了する。

神保町のその筋の古本屋主人によれば、ほかの植民地ものに比べ、台湾関連の絵葉書は全然品物が入ってこないということなので、この本でよろしいかと思います。

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プロフィール

天野健太郎(あまの けんたろう)
1971
年、愛知県生まれ三河人。京都府立大学文学部国中文専攻卒業。2000年より国立台湾師範大学国語中心、国立北京語言大学人文学院へ留学。帰国後は中国語翻訳、会議通訳者。聞文堂LLC代表(ツイッターアカウント「 @taiwan_about 」)。台湾書籍を日本語で紹介するサイト「もっと台湾(http://www.motto-taiwan.com )」主宰。訳書に『台湾海峡一九四九』龍應台著(白水社)、『交換日記』張妙如、徐玫怡著(東洋出版)、『猫楽園』 猫夫人著(イースト・プレス)。『日本統治時代の台湾』陳柔縉著(PHP研究所)。俳人。