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『攝影之聲 voice of photography 2014年5・6月号』(雑誌、影言社)
「日本統治時代台湾のアルバムから」

 文=天野健太郎

事情があって片付けをしていたら、198811月号の『太陽』(平凡社)が出てきた。以前だいぶ処分したが、それでもしぶとく残っていた学生時代の雑誌である。「魚」特集で、買った理由がわからない。あの頃はサブカル雑誌以外読まなかったはずで、同じ『太陽』でも、手元にあるのは写真特集ばかりである。

ページを繰っていくと、後ろのほうに「台湾のサバヒー(虱目魚)」なるカラー記事があった。当時は台湾を知る前だったので、それが買った理由ではないが、少し青みがかった写真が映す台南の養殖場、市場、サバヒー粥のおかげで、古本屋に買い取ってもらう段ボールからこの号だけ抜くことにした。

攝影之聲 voice of photography 2014年5・6月号

捨てる雑誌あれば、増える雑誌もある。とはいえ、そのほとんどが台湾のものだ(「仕入れ」ともいう)。台湾はここ数年、インディーズ雑誌が頑張っている。シンプルライフを描く『小日子』、高雄の地場文化を紹介する『藍鯨』、タイトルズバリだが意外になかった『短編小説』など……。

このインディーズ系写真雑誌『攝影之聲 voice of photography201456月号を買ったのは「研究開発」のためである。「太陽旗の下の凝視」という特集で、植民地台湾を被写体に撮影・編集・刊行された当時の「写真帖」を集めたものだ。表紙は日本風の学生帽を被ったパイワン族の少年たちの集合写真、目次は台湾を訪問した皇太子裕仁親王に頭を下げる女学生たちと、いきなり硬派に植民地主義を突きつけてくる。パラパラ見ていくだけで霧社事件「討伐写真帖」や台湾先住民族の風習を記録した写真などが多く並び、写っているものの価値(彼らのくらしの気高さ)と、それを写した意図(非近代的な野蛮さをもって、宗主国日本の優位を誇示する)が相反しあう。

またマニアックに、宣教師兼医師であったマッケイ(馬偕)が日本統治時代直前の台湾を撮影していたエピソードを紹介し、日本政府に台湾領有を焚き付けた外交官、リセンドルの写真まで載せている。さらに、戦中の満州を撮った木村伊兵衛1『王道楽土』に関する考察記事や、皇民化運動のさなか「写真報国同志会」の腕章をつけて撮影する鄧南光〔とうなんこう〕2の写真が続き、当初の意図を超えたものまで写り、価値観は淘汰されてもそのイメージ自体は勝手に残ってしまう、写真の恐ろしさを感じる。

拙訳の『日本統治時代の台湾 写真とエピソードで綴る18951945(陳柔縉著、PHP研究所)に収録の写真は、鉄道ホテルやハヤシ百貨店、あるいは大稲埕(迪化街周辺)の女性や民主運動家と、比較的入門篇だが、それでも撮影された当時と、現代台湾人の著者とでは見方がまったく異なっている。写真はその時を写しとるだけでなく、いずれ来る未来の変化をも切り取るものなのだろう。

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プロフィール

天野健太郎(あまの けんたろう)
1971
年、愛知県生まれ三河人。京都府立大学文学部国中文専攻卒業。2000年より国立台湾師範大学国語中心、国立北京語言大学人文学院へ留学。帰国後は中国語翻訳、会議通訳者。聞文堂LLC代表(ツイッターアカウント「 @taiwan_about 」)。台湾書籍を日本語で紹介するサイト「もっと台湾(http://www.motto-taiwan.com )」主宰。訳書に『台湾海峡一九四九』龍應台著(白水社)、『交換日記』張妙如、徐玫怡著(東洋出版)、『猫楽園』 猫夫人著(イースト・プレス)。『日本統治時代の台湾』陳柔縉著(PHP研究所)。俳人。

  1. 木村伊兵衛(1901-74) 日本を代表する写真家。スナップ写真の名手。 []
  2. 鄧南光(1907-71) 台湾を代表する写真家。1920-30年代の日本でスナップ写真を学んだ。 []