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一国家一言語一文学という近代文学の常識を鮮やかに覆し、
漢文、中国語、日本語、台湾語など多様な言語からなる台湾文学。
この多元性、ハイブリッド性こそが台湾文学のいちばんの特徴です。
今月はシャマン・ラポガンとその作品をご紹介します。

台湾原住民族タオ族の作家シャマン・ラポガン(前編)

文=赤松美和子

今回は、台湾の原住民文学の作家として最初に長編小説を発表したシャマン・ラポガンをご紹介いたしましょう1

まず、台湾原住民族と台湾原住民文学について簡単にお話したいと思います。
台湾政府が認定した台湾原住民族2は、アミ族、タイヤル族、パイワン族、ブヌン族、プユマ族、ルカイ族、ツォウ族、タオ族(別名ヤミ族)、サイシャット族、サオ族、カバラン族、タロコ族、サキザヤ族、セデック族、サアロア族、カナカナブ族の16民族です(20152月現在)。人口は約53万人、台湾全人口の約2%を占めています3

台湾の原住民族は、文字を持たず、神話や歴史、風俗習慣を口承で伝えてきました。そのため、自分たちの歴史や物語を自らは記しておらず、17世紀以降、台湾にやってきた統治者や宣教者たちにより記されていきます。

日本植民地期は、台湾総督府のよる統治のために、官吏や学者が原住民族の言語や神話、物語を収集し記録しています。蕃童教育所4や公学校で日本語教育を受けた原住民の児童の内、一部の優秀な児童は中高等教育を受け、セデック族の花岡一郎(1908‐30)やツォウ族の高一生(1908‐54)など日本語で自己を表現する原住民エリートも現れました。また、佐藤春夫「霧社」(1936)・大鹿卓『野蛮人』(1936)・中村地平『長耳国漂流記』(1941)・真杉静枝「蕃女リオン」(1941)・坂口䙥子「時計草」(1943)など日本人作家たちも原住民族を作品に描いています。

戦後、日本語に取って代わり中国語が国語となり、中国語を習得した世代の原住民による最初の文学作品が登場したのは60年代でした。パイワン族の陳英雄(コワン・タラル、1941年‐)旋風酋長」(1962)です。

80年代の台湾民主化運動に伴い、原住民の尊厳と奪われた権利の回復を求めて、原住民権利促進運動が起こります。こうした運動と密接に結びつき、パイワン族のモーナノン(1956‐)は、詩「僕らの名前を返せ」1984)を発表、ブヌン族のトパス・タナピマ(1960‐)は、小説「トパス・タナピマ」1982)、「最後の猟人」1986)を発表、「台湾原住民文学」とよばれる作品群が誕生します。

戒厳令が解除され、90年代になると、都市で原住民文化運動に携わっていた原住民知識人のあいだに、「部落へ帰ろう」という機運が高まり、タイヤル族のワリス・ノカン1961‐)、中国安徽省出身で軍人の父とパイワン族の母を持つリカラッ・アウ―1969‐)など故郷に帰って文学活動を行う作家も現れました。彼らの作品は、台湾の芥川賞に相当する文学賞である時報文学賞を受賞するなど、原住民作家と原住民文学作品は、台湾文学界において看過できない存在となっていきます。今回、ご紹介いたしますシャマン・ラポガンもその一人です。
(続きます!)
 

 

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10250674_794106527269313_1092258525_n赤松美和子(あかまつみわこ)
大妻女子大学比較文化学部准教授。
博士(人文科学)。1977年、兵庫県生まれ。
2008年、お茶の水女子大学大学院博士後期課程修了。専門は台湾文学。
著書に『台湾文学と文学キャンプ―読者と作家のインタラクティブな創造空間』(東方書店)がある。

1今回のコラムでは、以下の文献を参照しました。魚住悦子「第13章 台湾原住民文学の誕生―ペンをとった台湾原住民族」(中島利郎・河原功・下村作次郎編著『台湾近現代文学史』研文出版、2014)、下村作次郎「解説 台湾原住民文学とは何か」(下村作次郎編訳『台湾原住民文学選1 名前を返せ』草風館、2002)、魚住悦子「解説 部落に生きる原住民作家たち」(魚住悦子編訳『台湾原住民文学選2 故郷に生きる』草風館、2003)、魚住悦子「解説 シャマン・ラポガンと海に生きる人々」(魚住悦子訳『台湾原住民文学選7 海人・猟人』草風館、2009、)、魚住悦子「解説 蘭嶼に生きる人々」(魚住悦子訳『冷海深情-シャマン・ラポガンの海洋文学1』草風館、2015)、下村作次郎「大きく姿をあらわすシャマン・ラポガンの海洋文学」(空の目―シャマン・ラポガンの海洋文学2草風館、2015)。

2 日本語では「先住民族」と言いますが、台湾では、漢語で「先住民族」と表記すると、「すでに滅んでしまった民族」という意味になるため、本稿でも「原住民族」と表記します。

3 行政院台湾原住民委員会HP http://www.apc.gov.tw/portal/docList.html?CID=6726E5B80C8822F9 (2015224日アクセス)参照。

4蕃童教育所は、原住民族の児童を対象とする初等教育機関であり、警務局の管轄下におかれ、教員は駐在所の巡査が兼務していました。