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青春と民主主義

『物裡學』李明璁著(2009年、遠流出版)

 文=天野健太郎

相変わらず台湾の選挙は、真っ当であった(20141129日投票の地方首長・議員選挙)。別に国民党が大敗したからそう言うのではない。台湾有権者の理想と現実のバランス感覚、政権・政治家へのチェック機能、あるいは支持政党への長期サポートは、どれをとっても(どの色であっても)、雰囲気だけで投票する(あるいはしない)我々と雲泥の差であった。勉強になりますね。

注目の台北市長選、当選した無党派・柯文哲〔かぶんてつ〕のニュースを見ていたら、見慣れた顔と名前が映った――李明璁〔り・めいそう/リー・ミンツォン〕、台湾大学社会学部准教授で、台北市文化局長選任に関わっているらしい。が、台湾では大学教授や文化人、作家が政治的な発言、行動をとるのはよくあることなので、驚きはしない。まして彼は、2008年の「野いちご学生運動(集会デモ法改正廃止を求めての座り込み運動)」の発起人のひとりである。

李明璁の『物裡學(物理学のもじり)』(作品概要を読む)は、言わば、80-90年代台湾で青春を過ごしたものの(彼は1972年生まれ)、サブカルエッセイ集である。村上春樹が世界に広めた「小確幸〔しょうかっこう〕」と、ドイツの思想家ヴァルター・ベンヤミンが提唱した概念「凝視」に則って、日常のありふれたモノを見つめて、個人と社会の関係性を映し出し、ささやかな価値を見つけ出している。ただ彼は、標準的な台湾の学生・知識人であったため、本書にも、“ありふれた”民主運動があちらこちらに、またかなり印象的に描かれる(村上春樹がかつて、政治から距離を置き、「選挙に行かない」とエッセイ書いていたのと対照的だ)。

例えば、「アダルトビデオ」(邦訳を読む)では蔣経国総統が逝去したとき、当時高校生だった彼が過ごした懺悔と希望の一日を描いている。そこからは、戒厳令解除前後の台北の空気が読みとれる。また「Tシャツ」(邦訳を読む)では、デモに積極参加した、熱い大学時代を振り返り、Tシャツとアイデンティティの関係について甘酸っぱく書いている。

選挙も「ひまわり学生運動」も、日本でこれほど注目されるとは思わなかった(選挙もデモも毎年やってるけど……)。ただ、相変わらず、「革命」と“過小”評価したり、中国との関係でのみ語る、“大所高所”の意見が多い。だから、台湾人がゆっくり、実直に成熟させてきた民主化の歴史を、台湾人自身に書いて欲しいと思う。センセーショナルでなく、教科書的でなく(また自慢話でなく)、李明璁がセンチメンタルでユーモラスな文体で、自分の青春と台湾民主主義の青春を書いてくれないだろうか? そしたら、我々にもいい勉強になると思います。

 

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プロフィール

天野健太郎(あまの けんたろう)
1971
年、愛知県生まれ三河人。京都府立大学文学部国中文専攻卒業。2000年より国立台湾師範大学国語中心、国立北京語言大学人文学院へ留学。帰国後は中国語翻訳、会議通訳者。聞文堂LLC代表(ツイッターアカウント「 @taiwan_about 」)。台湾書籍を日本語で紹介するサイト「もっと台湾(http://www.motto-taiwan.com )」主宰。訳書に『台湾海峡一九四九』龍應台著(白水社)、『交換日記』張妙如、徐玫怡著(東洋出版)、『猫楽園』 猫夫人著(イースト・プレス)。『日本統治時代の台湾』陳柔縉著(PHP研究所)。俳人。