インタビュー姜秀瓊s

台湾人でありながら、日本を舞台にした物語を、日本の俳優とスタッフと共に作り上げる高難度の仕事を初長編映画監督作品「さいはてにて−やさしい香りと待ちながら−」にて成し遂げた姜秀瓊(チアン・ショウチョン)監督。女優からキャリアをスタートし、これまで楊德昌(エドワード・ヤン)や侯孝賢(ホウ・シャオシェン)といった台湾の巨匠に師事し、現在最も注目を集める女性監督の彼女に、ご自身の読書遍歴を詳しく語っていただきました。

取材・構成=西本有里、撮影:江口洋子

もっと台湾(以下、も):本を読むのは好きですか?

チアン監督(以下、チ):本を読むのは大好きです。ただ、私は小さい頃から読書障害があるので、本を読むのにとても時間がかかってしまいます。ですから読了出来ていない本が家にはたくさんあります。でも気に入った本は時間をかけて、じっくりと読むようにしています。今日持ってきた書籍はすべて読み終えている大切な本ばかりです。

:監督とは長いおつきあいですが、読書障害をお持ちだと初めてお聞きしたので、とても驚いています。障害をもちながらですが、どのようなジャンルの本を読むのがお好きですか?

:映画関連書籍、そして小説と詩集を読むのが好きです。『牯嶺街少年殺人事件 電影劇本(牯嶺街少年殺人事件 映画脚本)』(1991年、時報文化)は楊德昌(エドワード・ヤン)監督と映画監督であり詩人の鴻鴻(ホンホン)との共著で、私自身が初めて映画に関わった作品なので思い入れの強い書籍です。また『戀戀風塵(恋恋風塵)』(1989年、遠流)は映画の脚本を書く時に必ず開き、分析する本です。映画の脚本と同じく、この本も呉念真1と朱天文2の共著で、完成度が高く、とても勉強になります

『楊德昌電影筆記NOTEBOOK ON MY NEW FILM』(1991年、時報文化出版)には、撮影現場の記録や写真がたくさん載せられており、また張震(チャン・チェン)が描いた撮影現場のイラストも入っています。楊瘴ケ電影筆記-著者はドキュメンタリー映画監督、映画祭のプログラミング・ディレクターとしても有名な王耿瑜(ワン・ガンユー)さん、この本には当時の撮影状況をまざまざと思い出させてくれる多くのエッセンスが詰まっているので、私にとっては特別な一冊です。

またスペインのカメラマン、ネストール・アルメンドロス著書の『攝影師手記(キャメラを持った男)』3は自身の撮影手法、撮影技術を中心に、撮影監督として関わった数々の映画のエピソード、そして映画のあり方について情熱的に語っている本です。私は李屏賓(リー・ピンビン)4にこの本と同じように彼が撮影監督として関わった現場の状況や、撮影に対する考え方を記して出版してくれれば、どれだけ大きな力になるかと思っています、是非とも執筆してもらいたい本です。本は映画と同じで、読者・観客の読み方や受け取り方に多様性があり、その異なる感じ方がその人の心を豊かにするものだと思います。

映画は2時間という決まった時間の中でストーリーを紡いでいくのに対し、本は自分のペースでゆっくりイマジネーションの翼を羽ばたかせながら、文字との時間を堪能できますね。例えば、エリック・ロメールの「四季の物語」、映画はもう何回も見ましたが、本はまだ読み終えていません(笑)。いつかゆっくりじっくり読みたいと思っています。映画と原作小説はそれぞれ違う味と魅力があると思います。

映画の本について語っていて思い出したのですが、私の友人の監督が学生だった頃の面白いエピソードです。監督が映画監督を目指して勉学に励んでいた頃はまだまだ貧しく、映画館に映画を見に行くお金を集めるのも一苦労だったそうです。そこで同級生たち数人で話し合い、皆でお金を出し合って、集めたお金で一人代表を決め、代表者が映画館に行き、映画を見て来るのです。そして見終わった映画の物語、構成、カット割り、カメラの動き等を事細かに覚えて、見られなかった同級生たちに自分が見てきた映画のすべて話すというのです。すごいですよね!また面白いのが、その後、お金が貯まってその映画を実際に見てみたら、代表者の同級生が語った内容の方が断然面白く、実際の映画はそこまで素晴らしくなかった事が多かったと言っていた点です。

:その映画にかける情熱には感動しますね、このエピソードだけでも1本映画が撮れてしまいそうですね。

:そうでしょう?私もこれで物語を書いてしまおうかな(笑)。

では書籍に話を戻しますね。私が好きなジャンル二番目の詩ですが、詩集は文章が短いので、私にとっては比較的読みやすいです。初めて興味を持った詩は“甜蜜的復仇(甘い復讐)”。短くて面白い詩なので、ここで読みますね。

把你的影子加點鹽 あなたの影に少々塩を加え
醃起來 塩漬けにして
風乾 乾かそう
老的時候 時間が経ったら
下酒 酒のつまみに

私の友人で詩人の鴻鴻(ホンホン)に教えてもらった詩なのですが、後からこの詩は夏宇(シャ−・ユー)5が書いたものだと知りました。彼の詩集『備忘録』は大好きな作品です。

4154

そしてジャン・ジャック・サンペ著書のMarcellin Caillou(マルセランとルネ)』6も大好きな作品です。確か中国語翻訳本『馬塞林為什麼會臉紅(マルセランの顔はなぜ赤いの?)』も持っていたのですが、探しても見つかりませんでした、ですから今日はフランスで購入したペーパーバックのみ持ってきました。顔が何の理由もないのに赤くなってしまう男の子マルセランと、大きなくしゃみがとまらないバイオリンの上手な男の子ルネの二人の友情物語。他人と違うことに悩み、孤独を感じながら生活していた二人の出会いと突然の別れ、そして再会を描いています。フランス語を勉強している時に、サンペの描く可愛らしいイラストに惹かれて購入しました。イラストが多いのでフランス語を勉強する教材としてもちょうどよかったです。顔が赤くなってしまうマルセランが赤色に塗られていて一目見てどこにいるかすぐに分かります(笑)。じんわり心温まる素敵な作品です、皆さんに是非読んで頂きたい作品です。

またガルシア・マルケス(中国語名:馬奎斯)も好きな作家で、『コレラの時代の愛(中国語名:愛在瘟疫蔓延時)』や『百年の孤独(中国語名:百年孤寂)』も特に印象に残っている小説です。

(続きます!)

 

 

姜秀瓊

姜秀瓊(チアン・ショウチョン)
196954、台湾台北生まれの監督。国立芸術学院ドラマ科、国立台北芸術大学映画創作研究所卒業。楊徳昌(エドワード・ヤン)監督の「牯嶺街少年殺人事件」で女優デビュー、金馬奨最優秀助演女優賞にノミネートされる。その後、同監督の作品に脚本や助監督として参加し、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の助監督を経て、2002年のオムニバス映画「三方通話」で監督デビュー。2008年に一部自己資金を投入して撮った短篇映画「跳格子」(石蹴り遊び)が金馬奨最優秀短篇賞、アジア太平洋映画祭最優秀短篇賞などを受賞し、注目を集める。2010年にはドキュメンタリー映画「風に吹かれて―キャメラマン李屏賓」(リー・ピンビン)の肖像(乘著光影旅行)を共同監督。同作は台北映画祭でグランプリ、最優秀編集賞、最優秀ドキュメンタリー賞を受賞し「台湾で最も期待される監督」の一人に選出される。最新作は東映配給の「さいはてにて−やさしい香りと待ちながら−」。

  1. 呉念真〔ウー・ニェンジェン〕1952年8月5日台北生まれの脚本家、監督、小説家。若手監督を起用した「光陰的故事」(1982年)、「坊やの人形」(1983年)などのオムニバス作品を成功させ、台湾ニューウェーブのきっかけを作った。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の一連の作品を手掛け、台湾で最も活躍する脚本家の一人となる。主な脚本作品に「恋恋風塵」(1986年)、「魯冰花(ルービンホア)
    (1989年)、「悲情城市」(1989年)、「戯夢人生」(1993年)などがあり、1994年、戦前の日本教育を受けた自身の父をモデルにした映画「多桑(トウサン)」で監督デビュー。小説家としても活躍し、台湾で文学賞、最優秀作詞賞など多数受賞している。 []
  2. 朱天文〔しゅてんぶん〕1956年、高雄鳳山生まれ。著名な小説家である外省人の父と、日本文学翻訳家である本省人の母を持ち、二人の妹も小説家という文学一家で育つ。中山女子高校時代に初めて小説を発表し、淡江大学英文学科在学中に三三書房を設立。「小畢的故事」を発表したことで映画監督侯孝賢と知り合い、彼の映画の脚本を手掛けるようになる。『童年往事』『冬冬の夏休み』『悲情城市』『珈琲時光』など、ほとんどの作品に脚本家として参加している。 []
  3. 『攝影師手記』は1990年、遠流出版より発売された。日本では『キャメラを持った男』のタイトルで筑摩書房より同じく1990年に発売されている。ヌーヴェル・ヴァーグの映画に目がくらんでパリに渡り、エリック・ロメールとの劇的な出会いからプロの道に入って、トリュフォーやテレンス・マリック、ロバート・ベントンらの秀作の撮影監督をつとめた〈キャメラの魔術師〉が、作品に沿って語る感動的な体験の数々を記した本。 []
  4. 1954年8月8日、台湾生まれの撮影監督。1977年に中央電影公司に入社。1985年、『童年往事 時の流れ』で初めて侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督と組み、以後侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督作品の常連となっている。近年は行定 勲監督作品『春の雪』や是枝裕和監督作品『空気人形』など日本映画においても撮影を担当している。また、姜秀瓊(チアン・ショウチョン)監督が關本良(グァン・ベンリャン)監督と共同で監督した「乘著光影旅行(風に吹かれて~キャメラマン李屏賓の肖像)」は、李屏賓(リー・ピンビン)自身と彼の仕事に迫ったドキュメンタリー映画。 []
  5. 1956年12月18日生まれの台湾人作家、詩人、作詞家。19歳より詩を書き始め、1984年に『備忘録』を自費出版して大きな注目を集める。その他の作品に『腹語術』、『Salsa』等がある。蘇打綠(ソーダグリーン)や蕭敬騰(シャオ・ジンタン)など有名歌手の作詞も手がけている。 []
  6. 1969年、Éditions Denoël出版、日本では1991年谷川俊太郎訳でリブロポートより出版されるも絶版に []