インタビュー姜秀瓊s

台湾人でありながら、日本を舞台にした物語を、日本の俳優とスタッフと共に作り上げる高難度の仕事を初長編映画監督作品「さいはてにて−やさしい香りと待ちながら−」にて成し遂げた姜秀瓊(チアン・ショウチョン)監督。女優からキャリアをスタートし、これまで楊德昌(エドワード・ヤン)や侯孝賢(ホウ・シャオシェン)といった台湾の巨匠に師事し、現在最も注目を集める女性監督の彼女に、ご自身の読書遍歴を詳しく語っていただきました。

取材・構成=西本有里、撮影:江口洋子

:子供の頃読んだ本で印象深い本はありますか?

:先ほどもお話ししたように小さい頃から読書障害があったので、家に閉じこもって本を読んだりする事はなく、毎日外を走り回っていました。子供の頃外で走り回って遊ぶのはとても重要です。自分の子供にもそうさせています(笑)。でも漫画は読んでいました、『おれは鉄兵(中国語名:好小子)』、『ベルサイユのばら(中国語名:凡爾賽玫瑰)』など日本の漫画を色々読んでいた記憶があります。

:では監督の最新作「さいはてにて−やさしい香りと待ちながら−について聞かせ下さい。監督は今回台湾から単独で日本に来て、日本を舞台とした物語を日本の映画チームと共に撮った訳ですが、日本と台湾の撮影で何か違う所はありましたか?

:そうですね、色々な意味で異なる部分が多く、とても新鮮な体験でした。台湾の現場は事前にかっちり決め込んで動くよりも、現場の状況に応じてフレキシブルに動くことが多いのですが、日本では事前準備がきっちりなされ、計画性をもって動いて行くのが印象的でした。また脚本や台詞に関しても、台湾では監督にかなりの部分が任されて、現場で変更をするのは日常茶飯事ですが、今回はその自由度に制限がある部分に苦労しました。

:では監督お薦めの書籍をご紹介下さい。

姜秀瓊監督2-

:一冊目は『巨流河』(2009年、天下文化)です。作者齊邦媛(チー・バンユェン)1さんの激動の一生を描いた大作で、じっくり時間をかけて読みました。中国東北部を流れる七大河川の一つである巨流河近郊に生まれ、日中戦争、国共内戦をくぐり抜け、台湾移住後、蒋介石独裁体制を経て今日に至るまでの一中国知識人家族の生き様を描いています。中国近代史の証言本でもありますし、家族の物語を描いているので非常に考えさせられる作品です。文章は淡々としているのに深い感動をよぶ傑作と言えます。映画として撮りたいとも思いますが、私ではこの物語を撮り上げる事は出来ないように思います。

:実は『巨流河』は日本でも翻訳本が出ています(2011年、作品社より上下巻で発売)

:そうですか!では日本の皆さんにも読んで頂けますね。是非皆さんに読んで頂きたい作品です。そしてもう一冊薦めたい台湾の本は、朱天心2の『古都』です。私は朱天心と朱天文(注2)姉妹お二人とも大好きな作家で、また朱天文さんとは一緒にお仕事もしていますが、姉妹とは言えやはり性格は少し違います。朱天心さんは活発で明るく、可愛らしい方。朱天文さんはお姉さんらしく慎重で、誇り高く、どちらかというと内気な性格です。また私は彼女たちと同じ桃園の眷村(けんそん、外省人が居住する地区の事)出身で、同郷という事もありますし、父親が外省人、母親が本省人の外省人第二世代という家族背景も同じですので、共感する部分がたくさんあるのです。

:監督にとって、本はどのような存在ですか?

:本は私にとって最も優しく温かいパートナーです。本さえあれば、自分が孤独だと感じる事はありません。本は自分のテンポ、自分の歩調で読む事が出来ます、自分の気の向いた時に、何か想像の翼を羽ばたかせたい時に、本はいつでも側にいてくれます。本棚の上にある本は、いつでもそこにあって、私を待っていてくれます。私に何のストレスを感じさせる事もなく、寄り添ってくれています。

私は本を読む速度はとてもゆっくりですが、どの本もじっくり読み込みます。読みながら目の前に映像を思い浮かべ、自分自身の経験に照らし合わせながら読んで行く事が多いです。映像で捉えているせいもあるのか、読んだ書籍の詳細をとてもよく憶えています。友人には、読むのは早いけれど、内容の詳細をあまりよく憶えていないという人もいますので、そういう意味ではゆっくりじっくり読むのも悪い事ばかりではないかな?と思ったりもします。

でももし妖精が私の願いを一つ叶えてくれるというならば、私はこう願うでしょう、「私に本を普通に読める眼を与えて下さい」と!

 

 

姜秀瓊

姜秀瓊(チアン・ショウチョン)
196954、台湾台北生まれの監督。国立芸術学院ドラマ科、国立台北芸術大学映画創作研究所卒業。楊徳昌(エドワード・ヤン)監督の「牯嶺街少年殺人事件」で女優デビュー、金馬奨最優秀助演女優賞にノミネートされる。その後、同監督の作品に脚本や助監督として参加し、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の助監督を経て、2002年のオムニバス映画「三方通話」で監督デビュー。2008年に一部自己資金を投入して撮った短篇映画「跳格子」(石蹴り遊び)が金馬奨最優秀短篇賞、アジア太平洋映画祭最優秀短篇賞などを受賞し、注目を集める。2010年にはドキュメンタリー映画「風に吹かれて―キャメラマン李屏賓」(リー・ピンビン)の肖像(乘著光影旅行)を共同監督。同作は台北映画祭でグランプリ、最優秀編集賞、最優秀ドキュメンタリー賞を受賞し「台湾で最も期待される監督」の一人に選出される。最新作は東映配給の「さいはてにて−やさしい香りと待ちながら−」。

  1. 1924年、遼寧省鉄嶺県生まれ。台湾大学名誉教授。作家、教育者、文学研究者。1947年、武漢大学外国文学科を卒業後、台湾大学より招聘を受けて渡台。1956年のアメリカ留学を経て、中興大学外国文学科主任、台湾大学外国文学科教授などを歴任した。数多くの著作、編集、翻訳活動によって、現在の台湾文学、教育界において、最も尊敬を集めている人物とされている。 []
  2. 朱天心〔しゅてんしん〕1958年、高雄鳳山生まれの作家。朱天文は姉。中学の頃から作品を台湾の新聞社中国時報で発表し始める。日本では1997年度「中国時報」年間良書10作、「聯合報」最優秀図書賞などを受賞した『古都』が2000年に国書刊行会より出版されている。 []