column_top_history

 

台湾歴史歩きのお供(2)

文=黒羽夏彦

かつて台北から南部の台南や高雄へ行くには台湾鉄路の自強号という特急列車に乗って5時間くらいはかかったという。2007年に台湾高速鉄道が開通してからは2時間もあればたどり着けるようになった。それまでは不便だったアクセスが格段に容易となったため、今では一般の観光客でも気軽に台湾南部へ行ける。

台湾高速鉄道の開通に合わせて刊行された『片倉佳史の台湾新幹線で行く台南・高雄の旅──台湾中・南部ディープガイド』(まどか出版、2007年)は、高速鉄道の停車駅となる主要都市ばかりでなく、そこを起点に足をのばして行ける町やスポットをこまめに取り上げている。単に観光用ガイドブックというだけでなく、それぞれの町の歴史的・文化的特色が簡潔に紹介されており、台湾南部の様子を大雑把にでも知りたいときは役立つ。

古都・台南を歩くなら、一青妙『私の台南──「ほんとうの台湾」に出会う旅』(新潮社、2014年)を携行すると良い。観光客なら見逃せない台南グルメ。台南を通して見えてくる台湾の歴史や文化。そして人情こまやかな台南の人々。様々な話題がやわらかい筆致で描き出されている。普通によくある観光ガイドのようなきれいごとではなく、時に素直な感想をつづっているところが面白い。

大洞敦史『台湾環島 南風のスケッチ』(書肆侃侃房、2014年)は2010~2014年にかけて台湾各地を旅して回った記録。多くの日本人が訪れる台北についてはほとんど言及されていないという構成が独特だ。旅先でのひと時の邂逅や目の当たりにした光景を描き出す筆致にウェットな潤いを持たせているところが本書の魅力だが、訪れた先の歴史的背景もきちんと描き込まれている。

1895年、日清戦争後に結ばれた下関条約で清朝が台湾を割譲してから1945年の敗戦に至るまでの50年間、台湾は日本の植民地支配下にあった。50年という歳月は決して短くはなく、日本統治をどのように評価するかはともかくとして、その痕跡は台湾の各地に様々な形で刻み込まれている。漫然と旅するのではなく、一つ一つのスポットがどのような歴史的意義を持っているのか確認しながら歩く方が、台湾という日本との因縁浅からぬ島国の理解を深めることができ、同じ旅行でも建設的なものとなるだろう。

そうした歴史散策をする上では、又吉盛清『台湾 近い昔の旅 台北編──植民地時代をガイドする』(凱風社、1996年)、片倉佳史『台湾 日本統治時代の歴史遺産を歩く』(戎光祥出版、2004年)、同『観光コースでない台湾──歩いて見る歴史と風土』(高文研、2005年)の3冊をお勧めしたい(前2冊が現在、入手しにくいのは残念)。また、司馬遼太郎『街道をゆく 40 台湾紀行』(朝日文庫、2009年)は、旅歩きをしながら歴史の薀蓄を傾ける独特の語り口で一定数のファンを獲得している。初めて台湾を訪れるとき本書を持参する人も多いことだろう。

亜洲奈みづほ『台湾事始め──ゆとりのくにのキーワード』(凱風社、2006年)、同『現代台湾を知るための60章』(第2版、明石書店、2012年)は台湾理解に必要なキーワードを網羅しながら、それぞれについてエッセイ風につづられている。台湾を歩きながら気になることがあれば、本書の関連項目を拾い読みしてみるといい。情報量は豊富、あらゆる角度から台湾の社会や文化を説明してくれて便利である。

 

 

コラム「台湾史を知るためのブックガイド」のその他の記事
全記事のリストはこちら

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA黒羽夏彦(くろはなつひこ) 台湾専門ブログ「ふぉるもさん・ぷろむなあど」、書評ブログ「ものろぎや・そりてえる」を運営。1974年生まれ。出版社勤務を経て、2014年3月より台南の国立成功大学文学院華語中心へ留学。東アジアの近現代に交錯したさまざまな人物群像に関心を持ち、台湾に視点を置いて見つめ直したいと考えている。