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台湾人作家が見る東京と日本人

『無影者』張維中著(馥林文化、2012年)

 文=天野健太郎

今回紹介したいのは、本というより人である。
世界で活躍する台湾人はたくさんいる。スポーツはその筆頭で、王建民(ヤンキース、WBCで活躍)や陳偉殷(チェン・ウェイン、中日→オリオールズ)はもちろん、テニスの謝淑薇はダブルスで去年、世界ランキングトップに立った。スポーツ以外ではジェイソン・ウー(呉季剛、オバマ夫人のドレスで注目されたデザイナー)、リー・ミンウェイ(李明維、インスタレーションアーティスト。2014年9月に森美術館で展覧会)などもアメリカでなかなかのご発展だ。日本へ視点を戻せば、日本ハムファイターズの陽岱鋼、囲碁の謝依旻、張栩が長期安定的に活躍中である。(芸能界は、Mayday(五月天)待ちですね。)

日本で活躍する台湾人作家もいる。彼の名は、張維中〔ちょういちゅう〕。台湾ですでに人気作家であったにもかかわらず、2008年より日本へ居を移し、なお精力的に作品を執筆・発表している(ただしまだ中国語)。もともと日本の小説に強いシンパシーがあったのだろうけど、言語という障壁を超えて日本に定住するというのは、大した根性である。その後彼は、東京生活を題材としたエッセイや、旅行ガイドを次々刊行し、2012年に7年ぶりとなる長編小説『無影者(影をなくしたもの)』(馥林文化)を上梓した。舞台はやはり東京である。
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台湾からやってきた「僕」は、新宿二丁目の名物ゲイバーを経営する母に頼まれ、犯罪捜査に協力することになった。犯人の手がかりを夢に見る能力を持ってしまった中学生の娘とともに(しかしまだ父と名乗れない)、東京の暗部で起こる怪事件を次々解決していく――ミステリー小説である。

丁寧な心理描写で定評がある彼のもうひとつの魅力は、ユーモラスかつシニカルな会話である。母は台湾で僕を産んだあと、家を捨てて日本へ行き、新宿のヤクザの妻になった(その後死別)という設定で、カウンター越しに息子や“オトメン”バーテンダーなど東京在住の台湾人たちと丁々発止のやりとりを繰り広げ、男女や人生に一言ぶっていく。なかには、「変人は、日本の名産だ」などという鋭い意見があったりして、彼らが日本人をどう見ているもわかる。エトランゼとして、観察するだけでなく、なおアクティブに行動する主人公たちのバイタリティは、著者自身、あるいは海外で活躍する台湾人たちと同じものだろう。

本書タイトルの「影」は、村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に由来するが、同じオマージュである、彼の最新エッセイ集『夢中見(夢で会いましょう)』(聯合文学)には、表題エッセイの日本語訳がおまけで収録されています。

張維中のオフィシャルサイト: http://www.weizhongzhang.com/libra925/riichi.html

 

 

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プロフィール

天野健太郎(あまの けんたろう)
1971
年、愛知県生まれ三河人。京都府立大学文学部国中文専攻卒業。2000年より国立台湾師範大学国語中心、国立北京語言大学人文学院へ留学。帰国後は中国語翻訳、会議通訳者。聞文堂LLC代表(ツイッターアカウント「 @taiwan_about 」)。台湾書籍を日本語で紹介するサイト「もっと台湾(http://www.motto-taiwan.com )」主宰。訳書に『台湾海峡一九四九』龍應台著(白水社)、『交換日記』張妙如、徐玫怡著(東洋出版)、『猫楽園』 猫夫人著(イースト・プレス)。『日本統治時代の台湾』陳柔縉著(PHP研究所)。俳人。