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自由を旅する、自由に旅する

『自由背包客』呉易蓁・著 (2013年玉山社)

 文=天野健太郎

台湾を旅する人は、何を旅するのか?
99%はまず、食を旅することから始めるだろう。言葉がわからなくとも、地図が読めなくとも、宿を一歩出れば何かいい香りがしてくる。本能のままに、目の前のそれを指差せば、麺や粉もの、揚げものや煮込み、さらに果物やスイーツまで、ともかくは台湾の食のおいしさと多様性を堪能できるだろう。

次は、ショッピングの旅となろう。お茶やパイナップルケーキなどの定番のお土産だって、味からパッケージまで今はかなり選び甲斐がある。それに台湾は最近、雑貨が楽しい。おしゃれな店以外にも、文具屋や○×生活百貨に行けば、普通の生活用品がたくさんあって、日本とちょっとテイストが違う、B級の土産になる。
実は、このふたつで、当分リピーターの旅ができるはずだが、消費ばっかりしているのも気が悪いので、その前後を「町歩き」と称して歩いてみる。その延長上にある、「鉄道の旅」、「建築の旅」はすでに定番かもしれない。

このあたりから少しずつ、「消費の旅」から「学びの旅」に変わってくる。本当は、台湾の魅力は、何と言っても自然なのだが、リゾート系が弱い以上、「エコツーリズム(生態旅遊)」がイチオシになる。――とはいえ、地理的にいささかハードルが高い。じゃあ台北(と新幹線)でどうにかなる、「デモツーリズム」はどうだろうか? デモとはデモ行進のデモンストレーションであるし、民主主義のデモクラシーであってもよい。台湾でそれは一致している。

知性と良心の出版社、玉山社から出た『自由背包客』という本がちょうどいいガイドとなる。英語の書名はこうだ――「自由への道――台湾・民主化への苦闘を知るためのバックパッカーガイド」。
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台湾の民主運動は、戦後国民党独裁にたいしてだけではなく、その歴史は戦前日本統治時代から始まっている。だから本書でも戦前は台北の蒋渭水記念公園(抗日民主運動の闘士)や、彰化の頼和記念館(台湾近代文学の父)から、戦後は台北の二・二八事件や高雄の美麗島事件の発端の地まで、各年代、各地の“デモ”の現場を紹介している。4月のヒマワリ学生運動などは顕著だが、日本の圧倒的先を行く民主運動の成熟は、無論、一日にしてなったのではないのだ。

テーマは真面目だが、語り口はシニカルでも高慢ちきでもなく、あくまでも淡々と、歴史事件とその場所の今をレポートしている。しかもイラスト地図はほんわかとし、さらに都市ごとにしっかり、観光名所とご当地グルメを紹介している。のんびり、気楽に、緑島で海中温泉と政治犯収容所を見物し、嘉義で鶏肉飯を食べて、陳澄波二二八文化館を訪問して――台湾を、自由に旅しよう。

 

 

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プロフィール

天野健太郎(あまの けんたろう)
1971
年、愛知県生まれ三河人。京都府立大学文学部国中文専攻卒業。2000年より国立台湾師範大学国語中心、国立北京語言大学人文学院へ留学。帰国後は中国語翻訳、会議通訳者。聞文堂LLC代表(ツイッターアカウント「 @taiwan_about 」)。台湾書籍を日本語で紹介するサイト「もっと台湾(http://www.motto-taiwan.com )」主宰。訳書に『台湾海峡一九四九』龍應台著(白水社)、『交換日記』張妙如、徐玫怡著(東洋出版)、『猫楽園』 猫夫人著(イースト・プレス)。『日本統治時代の台湾』陳柔縉著(PHP研究所)。俳人。