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文藝編集ツアーレポート

文=黒羽夏彦

2015年3月20日(金)から23日(月)にわたり、日本の主要文芸各誌の編集長を台北にお招きして、台湾の出版関係者と意見交換をしていただきました。
ご一行は20日の午後、松山国際空港の到着。ホテルにチェックインして間もなく、夜には台湾政府文化部主催の歓迎会に出席しました。

3月21日(土)の午前中は、台北市内の齊東詩舍を参観しました。もともとは日本統治時代に建てられた高級官吏向けの住居で、この日式家屋に文化部長(当時)の龍應台氏が「齊東詩舎」と命名し、新しい詩の文化拠点として昨年7月にオープンしたばかりです。館内で展示されている台湾の詩人たちの手稿を観覧した後、台湾文学研究を牽引してきた陳芳明氏(国立政治大学台湾文学研究所教授)より、戦後の台湾文学史について包括的なレクチャーを受けました。台湾の特殊な歴史的背景のなか、様々な矛盾に直面しながら発展してきた文学の現状に感銘を受けました。
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お昼には陳芳明氏にもご一緒いただいて鶏肉料理の老舗へ移動。ここで作家の呉明益氏と合流して、鶏肉料理の美味に舌鼓を打ちながら意見交換をしました。出席者には日本語に翻訳された呉明益氏の作品『歩道橋の魔術師』(白水社より2015年4月25日刊行予定)のゲラがあらかじめ配布されており、その感想が率直に語られました。別れ際、自転車を颯爽と乗りこなす呉明益氏の姿が印象的でした。

午後は「台北光點 映画主題館/台北之家」へ移動。ここは戦前にアメリカ領事館として建てられ、戦後もしばらくの間、アメリカ大使官邸として利用されてきた建物です。現在は映画をテーマとして資料館となっています。実はここの2階にある喫茶店「紅気球」にて、初安民『印刻文学生活誌』『短編小説』編集長との交流会が設定されていましたが、初編集長のご都合により急遽翌日に変更となりました。

台北光點を後にしたご一行は、台湾文学の背景を知るため、まず迪化街を散策。それから、二二八事件のきっかけとなる事件が起こった場所や西門町、中正紀念堂、南門市場などを見学しました。夜は湘菜(湖南料理)を頂いた後、誠品書店信義店を視察しました。
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3月22日(日)の午前中は景美人権文化園区へ行きました。かつて台湾警備総司令部軍法処看守所があり、政治犯の拘留・裁判・処刑が行われていたところです。現在は国家人権博物館設立準備処の管轄下にあり、白色テロにまつわる史料が保存・展示されています。ここで政治受難者の蔡焜霖〔さいこんりん〕氏(司馬遼太郎『台湾紀行』に「老台北」として登場する蔡焜燦〔さいこんさん〕氏の弟)からお話をうかがいました。蔡焜霖氏ご自身がかつて無実の罪で十年間、緑島の政治犯収容所に入れられたことがあり、そうした凄惨な体験を基にしたお話に参加者はみな真剣な面持ちで聞き入っていました。
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お昼には譚光磊氏(光磊国際版権経紀有限公司)のお招きで台湾料理を堪能しました。この昼食会には昨日お会いできなかった初安民『印刻文学生活誌』編集長にもご参加いただき、幻冬舎の見城徹氏に敬意を抱いているという初安民氏の豪快な語り口に参加者一同魅了されました。矢野優『新潮』編集長は初安民氏にご挨拶してから帰国の途に就かれました。
午後は永康街・青田街など日本統治時代の家屋が残っている一帯を散策しながら、茉莉二手書店や舊香居などの古書店を見て回りました。

その後、青田藝集へ移動、こちらで日台文学出版会議が開催されました。楠瀬啓之・新潮社出版部文芸第三編集部副編集長より「日本の文芸誌の歴史」、武藤旬『文學界』編集長より「文学賞とは何か」、佐藤とし子『群像』編集長より「作家との付き合い方」、新井久幸『小説新潮』編集長より「ジャンル小説の最新状況」というテーマでそれぞれご発表いただき、これを受けて台湾側出席者と活発な討論が交わされました。台湾側からは九歌出版、新経典出版、大藝出版、玉山社、前衛出版などの出版社の編集者にご出席いただきました。夜は上海料理のレストランにて晩餐会が開かれました。

3月23日(月)は一日中、あいにくの雨。午前中はまず、かつて古本売りの露店が並んでいた牯嶺街へ行きました。エドワード・ヤン(楊德昌)監督「牯嶺街少年殺人事件」の舞台となったことでも知られています。この近くにある旧南風原医院にも足をのばしました。『美麗島まで』(ちくま文庫、2010年)の著者、与那原恵さんの祖父・南風原朝保が経営した医院だった建物で、近々取り壊される予定です。さらに、誠品書店敦南店、かつてのビール工場を転用した華山1914文化創意産業園区、微熱山丘などを視察しました。
武藤旬『文學界』編集長と佐藤とし子『群像』編集長はこの日の午後の飛行機で帰国の途に就かれました。

午後には最後のイベントとして楠瀬啓之・新潮社出版部文芸第三編集部副編集長と新井久幸『小説新潮』編集長が皇冠出版社を訪問し、最上階にある立派な旧社長室にて盧春旭・編集長と意見交換をしました。その後、編集部のオフィスも見学させていただきました。皇冠出版社の刊行ラインナップには日本の小説の翻訳もあり、新潮社で出した作品も数多く含まれていることには楠瀬氏、新井氏とも感慨深そうでした。

こうして4日間にわたるイベントは無事終了しました。日台双方の参加者とも、同様に抱える苦労話には共感し合い、同時に意見交換を通して学び合い、書籍文化をめぐる日台間の結びつきをいっそう深める機会となりました。

 

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OLYMPUS DIGITAL CAMERA黒羽夏彦(くろはなつひこ) 台湾専門ブログ「ふぉるもさん・ぷろむなあど」、書評ブログ「ものろぎや・そりてえる」を運営。1974年生まれ。出版社勤務を経て、2014年3月より台南の国立成功大学文学院華語中心へ留学。東アジアの近現代に交錯したさまざまな人物群像に関心を持ち、台湾に視点を置いて見つめ直したいと考えている。