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「台湾装丁図鑑」

『同居台北』漆志剛著(田園城市文化事業、2013年)

 文=天野健太郎

今回紹介したいのは、本というより人である。

2014年5月に、不忍ブックストリートで「台湾で本を売ること、作ること」というイベントがあった。台湾の出版社社長・陳炳槮〔チェン・ビンセン〕さんを招いて、出版ビジネスについて話を聞いた(私は通訳)のだが、彼の口ぶりはあまりにパワフルで、かつ過去の作品はあまりに独創的であった。

彼の会社「田園城市文化事業」が刊行した本は、建築やデザイン、写真、映画をテーマとしたものが多いのだが、似たような装丁が1冊たりとない。

 
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例えばこの『同居台北』漆志剛著(田園城市文化事業、2013年)は、戦後60年代~70年代に建築された中低層マンションの再開発について考察する本だが、背表紙から糸が見える。つまり、我々が見慣れたカバーはなく、背表紙もない。等間隔に走る糸かがり綴じの糸と、折り込まれたページの薄い背が露出しているだけだ。だから、写真や図面の見開きページも、きれいに180度開く。

イベントで一番評判だったのが、台湾原住民族の女性たちが、少女のころは家族のために、お嫁に行っては新しい家族のために、おばあちゃんになるまで機織りに生きる姿を描く写真集だ。横長のハードカバーの表紙は、ぺろっと布で覆われている。しかもすべて違う柄だそうだ。そう、一枚一枚(一冊一冊)がオリジナルの、おばあちゃんたちの手織りなのだ。

過去一番売れたという、かばんとかばんの中をコレクションした本は、表紙カバーが透明のショッピングバッグになっていて、取っ手が付いている。片手でぶらぶら持ち歩け、取っ手を開くとすぐ本が読める!

自由すぎる。が、闇雲に奇をてらったわけではない。どれもきちんと本の中身を吟味した上でのアイデアなのがよくわかる。「本はそれぞれ生命を持っている。だからそれに合わせて装丁するのは当たり前のこと。」「それに新しいものを作り続けないとおもしろくないじゃないか!」と陳さん。

さらに彼は、以前より英語+中国語の二ヶ国語版で制作し(取っ手の本は、欧米での売上が台湾の売上の数倍あったという)、最近は日本人の著作で、三ヶ国語版を刊行している。(だから日本でも、南洋堂書店などで販売している。)今後も、安藤忠雄や伊東豊雄の建築書を翻訳でなく、自社企画・三ヶ国語版で刊行する予定だという。彼に言わせると、それも「いつも新しいものを追求し、オリジナルな本を作ってきたから、チャンスをつかむことができたんだ!」ということになる。

台北の中山北路の路地を入ると、彼の書店とギャラリーがある。そこは台湾の新しいクリエイターに発表の場所を与えるだけでなく、彼自身にとっても、本というジャンルを超えて新しいアイデアが生まれる空間なのだ。

 
田園城市文化事業の本はこちらのイベントでご覧いただけます。
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プロフィール

天野健太郎(あまの けんたろう)
1971
年、愛知県生まれ三河人。京都府立大学文学部国中文専攻卒業。2000年より国立台湾師範大学国語中心、国立北京語言大学人文学院へ留学。帰国後は中国語翻訳、会議通訳者。聞文堂LLC代表(ツイッターアカウント「 @taiwan_about 」)。台湾書籍を日本語で紹介するサイト「もっと台湾(http://www.motto-taiwan.com )」主宰。訳書に『台湾海峡一九四九』龍應台著(白水社)、『交換日記』張妙如、徐玫怡著(東洋出版)、『猫楽園』 猫夫人著(イースト・プレス)。『日本統治時代の台湾』陳柔縉著(PHP研究所)。俳人。