下一個天亮

仮題:『次の夜明けへ(仮題)』
原題:『下一個天亮!!!』
著者:徐嘉澤
出版社:大塊文化
仕様:223頁、縦組み。2012年初版刊行
カテゴリー:中国語文学(小説、歴史、家族)
リンク: http://www.locuspublishing.com/events/1111TT077/oth.html
リンク(博客來):http://www.books.com.tw/products/0010556785

読みどころ:

新聞記者だった夫は、1947年の二二八事件で正義のために戦った。しかし、敗北のあと、弾圧から逃れて帰宅した夫は精神を病んでいた。物言わぬまま、食事も排泄もままならない夫を連れて、妻は高雄へ移った。嫁入りの持参金で田んぼを買い、農業で生計をたてながら、夫の世話をした。戦後まもなく台北で生まれた長男「平和」と、二二八事件後、高雄で生まれた「起義〔きぎ〕[蜂起の意]」は、赤ん坊のような夫をあっという間に追い越して大人になった。“父がいない”家庭で育った兄弟――兄、平和は弁護士となり、父と同じく正義のため、人権問題に取り組んでいる。弟、起義もまた正義のため政治運動に身を投じ、美麗島事件[1979年のデモ鎮圧事件]で逮捕される。夫は戒厳令が解かれた[1987年]ころから、誰にも見せずになにかをノートに書き留め、そのまま死んだ。その後、八八水害[2009年]の洪水がきっかけで、夫のノートが見つかった。そこに書かれていたのは、夫が精神に恐慌をきたした真相だった……

三代の家族(親、子、孫)を中心に、いじめで自殺した少年とその母、フィリピンやタイから来た外国人労働者など、それぞれ異なる価値観を持つ人物を主人公とした11篇の短編小説で、戦後台湾の民主化と社会運動の歴史を描く。ただしフォーカスはあくまでも家族関係に置かれ、ストーリーは、父不在の家庭で育ち、母の愛に飢えていた主人公たちの成長を丹念に追いかける。

弾圧に耐え、民主化を勝ち取った親世代にたいし、新世代を生きる哲浩(起義の子)は政治や歴史にまったく無関心で、なにかを変えるとか残すとかでなく、ただ今を楽しくおだやかに過ごせればいいと考えていた。ただ、彼は男性を愛したが、そのことで父と長い確執があった。そして彼は恋人との別れや再会を経て、少しずつ変わっていく…… 二二八事件で壊された家庭が、戦後の長い分断を経て、ついに絆を取り戻す。

台湾の新世代作家“四天王”の一人が、マクロレンズのように歴史の重要事件――二二八事件、美麗島事件、野いちご学生運動[2008年]、台湾初のゲイパレード――の現場を鮮烈に浮かび上がらせ、また「意識の流れ」のように、主人公たちの密やかな「愛」への渇望をソフトフォーカスのようなやさしさで描く11篇の物語。カルヴィーノの「軽さ」で、台湾の戦後政治史を個人の成長ストーリーに書き換えた連作短編集。

部分訳あり

目次:
次の夜明け
美麗島
わたしたちは山の歌を歌う
A7802
少年Y
アーメイ!アーメイ!
イチゴの戦い
正義の盛装
父なき子
無声映画
世界の終わりまで

あらすじ:

「次の夜明け」

春蘭には4つの名前があった。呂春蘭、宮本春子、小林春子、そして林呂春蘭…… 皇民化運動、結婚、そして戦後国民党による中国名への回帰。でも、小林という素敵な姓をくれて、まるで漬け物の瓷のなかから初めて表へ出たように、世界をくっきり見せてくれた、夫のことが好きだった。結婚してしばらくして、戦況は悪化し、日本人が消え、島の外から軍人や官僚たちがやってきた。田舎に逃げましょう、という春蘭の勧めに夫はにべもなく、激動の社会を民衆に伝える新聞記者の仕事に没頭していく。春蘭はひとりごちる。「しょうがない。男は正義のために生きる。家庭のためじゃない……」 春蘭はいつもと同じように掃除をして、ラジオを聞いて次の夜明けを待った。

闇煙草売りへの横暴な検挙をきっかけとする民衆と警察の衝突に、街全体が騒然となり、新聞社の前には多くの民衆が詰めかけた。新しい権力者のコントロール下にある新聞への糾弾だった。社長は民衆に向かって「事件の真実を伝える」と約束する。春蘭は社長の隣にいる夫の名前を呼んだが、夫は振り向いてくれなかった。翌朝、春蘭は生まれたばかりの息子「平和」を連れて、また新聞社に夫を探しに行った。しかし守衛は入れてくれない。噂話が聞こえる――「行政長官公署[国民党政府による台湾接収・統治機関]に集まった民衆に向かって、憲兵隊が機関銃を掃射したそうだ」 それからしばらく、夫は数日に一度帰ってきて風呂に入り、食事をしてすぐ忙しそうに出て行った。残された食器が春蘭の望む、ただ当たり前に夕食をとるという幸せのよすがとなった。出て行く間際に、妊娠を告げると、夫はおなかの子供を「起義」と名付けた。そしてそれが子供への最初で最後のプレゼントになった。数日後、帰宅した夫は言葉もなく部屋に座り込むと、そのまま彫刻のように動かなくなった。夫は精神に異常をきたしていた。

言葉のやりとりはおろか、食事も排泄もままならない夫を連れて、妻は高雄へ移った。嫁入りの持参金で田んぼを買い、生計をたてながら、夫の世話をした。ふたりの子供は、赤ん坊のような夫をあっという間に追い越して大人になった。“父がいない”家庭で育った兄弟――兄、平和は弁護士となり、父と同じく正義のため、人権問題に取り組んでいる。弟、起義もまた正義のため、政治運動に身を投じ、逮捕される。夫は戒厳令が解かれたころから、誰にも見せずになにかをノートに書き進め、最後死んだ。

「美麗島」

起義は小学校を出たころ、高雄港で舶来品を商うおば(父の姉)と暮らし始めた。母は赤ん坊のような父の世話で忙しかったからだ。起義は、自分には母がいないと感じていた。起義をかわいがったおばはこう言った。「顔は母さん似だけど、性格は父さん似だ。でも同じ道を歩むのはやめた方がいい。記者になったら、後戻りはできない。」 学校を出た起義は眼鏡屋で働き始めた。仕事の覚えもよく、給料もよかった。なんの不足もないはずなのに、どこか足が地についてないような感覚があった。情報の早い港町で、雷震事件[1960年リベラル雑誌『自由中国』が国民党政府に弾圧された]などを知っていた起義は、20歳になって記者になることを決意した。珍しく母がやってきて、父のかつて記者をしていたころの話をし、止められないとわかっていても息子を諭した。「時代はいとも簡単に、家族というものを変えてしまう」

台北の父がかつて働いた新聞社で働き始め、妻と子供を持ったころから、ふいに父のことが理解できるようになった。父もきっと、怖かったのだろう。自分も正義のために働くことと家庭を守ることのあいだで揺れ、不満を抱えながら、実際に行動することができなくなっていた。そんななか、1979年台湾(中華民国)はアメリカと断交した。おばが付き合っていた「アンクル」たちは、みな国へ帰っていった。彼らの誰かと結婚して、この小さな島を出て、アメリカに移住するおばの夢は破れた。

そして美麗島事件が起こった。妻の反対を押し切り、新聞社を辞め反体制雑誌『美麗島』で働いていた起義は、人権尊重を訴えるデモ部隊とそれを阻止しようとする警察隊の衝突を目の当たりにし、自らも逮捕される。そして思うのだった。「母や妻が止めたのも正しい。自分がしたことも正しい。だれも間違ってない。ただなにを選択するかが異なっていただけだ」

ほか9篇

 

 
徐嘉澤著者:
徐嘉澤(じょ・かたく/シュー・ジャーザー)
1977年、台湾・高雄生まれ。小説家、専門学校教員。著作にエッセイ集『門内的父親(ドアのなかの父)』、長編小説に『詐騙家族(サギ家族)』、『類戀人(モア・ザン・ファックバディ)』、『第三者(略奪する女)』など、短編小説集に『窺(覗く)』、『大眼蛙的夏天(メガネカエルの夏)』など多数。時報文学賞(短編小説部門)、聯合報文学賞(エッセイ部門)、九歌200万長編小説コンクール審査員特別賞、BenQ華文電影小説賞など受賞。『詐騙家族』は映画化が予定されている。

部分訳を読む

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