林柏宏2

2015年の出演作は4本と現在台湾で注目を集める旬の若手実力派俳優・林柏宏(リン・ボーホン)。日本の作品では2014年1月に放映された「金田一少年の事件簿 獄門塾殺人事件」にて、台湾本校の獄門塾予備校理系グループの生徒リン・ジーションを演じていたと聞けば少し印象があるかもしれない。そんな彼に台湾人気作家・藤井樹の初監督作品、新作映画「六弄咖啡館」の話を交えながら自身の読書遍歴を語っていただきました。

取材・構成=西本有里

:先ほど監督から薦められて本を読むようになったとおっしゃっていましたが、監督からはどのようなジャンルの本を薦められましたか?

:色々ですね、あの頃から読み始めたのは『グリム童話』や村上春樹です。村上春樹さんは文芸青年が必ず読む本ですね(笑)。あと『百年の孤独(中国語名:百年孤寂)』も読みました、『百年の孤独』は20歳以降に読んだ本の中で最も印象深い書籍です。20歳の時に初めて読んだのですが、読み終えるまでにものすごく時間がかかりました。本の冒頭に人物紹介が書かれていますよね?読みながら何度も人物紹介に戻り、照らし合わせながら読む必要がありました。『百年の孤独』は頭の中で映像イメージが最も広がる一冊です。本の世界に入り込んでしまう、別世界にトリップする感覚を味わえる本でした。僕は毎日夢を見るんですけど、ある段落まで読み終えて眠ると本のイメージ映像が夢によく出てきました、つまりそれだけ映像イメージを強烈に感じた本だったのです。僕にとってものすごく影響力の大きい本でした。

そして兵役前後・・・多分23歳か24歳頃に再度読み返したのですが、一回目読んだ時よりぐっと読みやすくなったと感じました、進歩していたんですね(笑)。初めて読んだ時はとにかく素晴らしい作品だと思ったのですが、読み返してみるとこれは悲しみの物語でもある事に気付きました。この作品は生活の中で起きる様々な感情を幻想的に描いていますが、そうでありながら現実生活の本質をしっかり描き出していると思います。世代交代を繰り返しながら生きる家族の物語、幻想的でありまた現実的な成熟した物語です。

:翻訳小説はよく読みますか?

:そうですね、そういえば僕は日本の小説もよく読でいます。村上春樹さんは大好きな作家さんで、僕にとって最も安心感があります。

:安心感ですか?安心感があるポイントは何でしょう?

:最も気持ちよく読める小説と言った方がいいのかな。読みやすいですし、後からじわじわ味が出て来る小説です。レッスンが終わってから少し時間があれば手に取りますし、バスの中で読んだりもします。気軽に読めるというか『百年の孤独』ほど難度が高くないのはいいですね(笑)。僕は村上さんの物語の語り口が好きで、また彼の描く登場人物は普通に見えて特殊ですよね。村上春樹さんの作品ほぼすべて読んでいると思います。

:村上春樹さんの作品で一番好きな本はどれですか?

:読んだ回数が最も多いのは『ノルウェイの森』です。でも自分が一番共感できるのは『走ることについて語るときに僕の語ること(中国語名:關於跑步,我說的其實是……)』というエッセイです。というのは僕もよく走るからです。この本を見つけた時、「おぉ!村上さんも走るのか!」と嬉しくなったんですよ。僕は一人で走るのが好きなのですが、本を読んだら村上さんもそうだったんですね。走っている時は色々な事を考えます、でも僕は走りながら自分が実際に何を考えていたのかよく分かっていなかったのです。でもこの本を読んで行くうちに「そうだ・・・僕はこんな事を考えながら走っていた」とハッとしたのです(笑)。走っている間って、意識が絶え間なく流れ続けて行く感覚で、意識の中に何かが入り込んで来てまた出て行く・・・ずっと循環している感覚なのです。多分日常的に走っている人達は皆この本を読んだらすごく共感できると思います。僕は本を読み終わってから村上さんのようにマラソンに出てみたい、もっと大きな事に挑戦したいという気持ちになりました。

また『もし僕らのことばがウィスキーであったなら(中国語名:如果我們的語言是威士忌)』という紀行も読みました。それでウィスキーを飲み始めました、というのは冗談ですが(笑)、村上春樹さんは『ノルウェイの森』のような人物・男女の情愛をメインとした物語も書け、また生活に密着したエッセイも書けるという事に驚きます。書く領域が広く、生活感をもったすごい作家だと思います。村上さんが実際にどんな生活をしているのかすごく興味があります。こういった生活感のある作品を読む事は、僕にとって演技の肥やしになり、とても貴重だと感じています。村上さんがノーベル賞を獲得するかもしれないというニュースを見た時はすごく興奮しました。

彼は多分『深夜食堂』のような食べ物と人間を描く作品も書けますよね。僕は『深夜食堂』も大好きです。僕が昔よく行っていた映画館があるのですが、その映画館の下は書店でした。だからその映画館に映画を見に行く時、僕は必ず1時間ぐらい前に到着してチケットを購入し、残りの時間を書店で過ごすのが習慣になっていました。そしてそこで必ず『深夜食堂』を購入して読みました。『深夜食堂』は一冊一冊が薄いので、あっという間に読めてしまう。僕は漫画を読むのがあまり得意ではないのですが、『深夜食堂』のような人物を中心とした短編小説のような物語は比較的すんなり読める漫画だったのです。

ボーホン君お気に入りの一冊 その1

『女のいない男たち(中国語名:沒有女人的男人們)』
 村上春樹著
台湾では2014年10月に時報出版より出版。日本では2014年4月に文藝春秋より出版された村上春樹の短編集。
一番最近購入した村上春樹さんの書籍だそうです。

村上春樹

:台湾作家の作品で好きなものはありますか?

:台湾作家の本はそんなにたくさん読んでいませんが、許榮哲〔シュー・ロンズァー〕1の『迷藏(かくれんぼ)』2という短編集は印象に残っています。僕が好きな本は先ほどもお話したようにどれも映像イメージの強い作品ばかりですが、この作品も映像イメージが強く、どの短篇もそれぞれ1本の映画として仕上がるな、と思いました。また最近『短篇小説』3という台湾の雑誌もよく読んでいます。台湾の様々な文化人の方々が作品を載せているので、書店をブラブラしている時にふと手に取りたくなる良い雑誌です。

また、僕はやはり映画関連の本を読むのも好きです。台湾の監督で作家でもある劉梓潔〔エッセイ・リウ〕4さんが「父の初七日(原題:父後七日)」という映画を撮っていますが、僕はこの映画がとても好きで、それで映画の原作本に興味を持ち、『父後七日』5を購入して読みました。それからエッセイや短編小説をよく読むようになりました。僕のデビュー作の映画の傅監督も作家なんですよ。彼女は作家からスタートして後に脚本を書くようになり、そして監督になったのです。彼女も短編小説を書いていますのでその影響もありますね。
(続きます!)

 

 

林柏宏3
【プロフィール】
林柏宏(リン・ボーホン)
1988年1月27日、台北市出身の俳優。2007年に中国電視公司が開催したオーディション形式音楽番組「超級星光大道」に出演し、芸能界に足を踏み入れる。初出演の映画「帶我去遠方(私を遠くにつれて行って)」(2009年)にて台北映画祭主演男優賞及び新人賞に入賞し、注目を浴びる。近年はマイケル・ベイ監督の「トランスフォーマー/ロストエイジ」や日本のテレビドラマ「金田一少年の事件簿 獄門塾殺人事件」への出演を果たすなど国際的な活躍が続いている。2015年の新作映画にはS.H.EのEllaと共演した「缺角一族(ミッシングピース)」、「真愛像阿飄(真実の愛はまるで幽霊)」、「六弄咖啡館」などがある。
写真提供:周子娛樂

  1. 許榮哲〔シュ−・ロンズァ−〕1974年台南生まれの台湾作家。台湾大学農業工程学科研究所修士。これまでに時報文學獎、寶島文學獎など様々な文学賞を受賞している。 []
  2. 2002年に寶瓶文化出版社より出版された短編集。10本の短編小説が収録されており、タイトルになっている『迷藏(かくれんぼ)』は、人生をかくれんぼに喩えて描写した物語。 []
  3. 2012年6月に創刊された台湾で唯一短編小説をメインに連載形式で掲載する文学雑誌。新聞連載が少なくなった事に危機感を抱いた茉莉二手書店(茉莉古書店)のエクゼクティブ・ディレクター傅月庵〔フ・ユェアン〕が台湾作家に発表の場を与えたいと隔月刊で出版。第4期目で休刊になる可能性があったが、印刻文學が引き取り現在も発行されている。 []
  4. 劉梓潔〔エッセイ・リウ〕1980年彰化県生まれの女性作家、映画監督。これまでの作品にエッセイ集『父後七日(父の初七日)』、『此時此地(この時この地で)』と短編小説集『親愛的小孩(親愛なる子供)』、『遇見(出会う)』などがある。2003年小説『失明』にて聯合文学小説新人賞を受賞。 []
  5. 2010年に寶瓶文化出版社より出版された短編集。2006年林榮三文學獎のエッセイ部門大賞。彰化県から上京した青年が故郷に戻り父の葬儀の準備にあたふたする姿をコミカルに描いた作品。2010年には映画化もされ、金馬奨及び台北映画祭で最優秀改編脚本賞を受賞している。 []