林柏宏2

2015年の出演作は4本と現在台湾で注目を集める旬の若手実力派俳優・林柏宏(リン・ボーホン)。日本の作品では2014年1月に放映された「金田一少年の事件簿 獄門塾殺人事件」にて、台湾本校の獄門塾予備校理系グループの生徒リン・ジーションを演じていたと聞けば少し印象があるかもしれない。そんな彼に台湾人気作家・藤井樹の初監督作品、新作映画「六弄咖啡館」の話を交えながら自身の読書遍歴を語っていただきました。

取材・構成=西本有里

:では林柏宏さんのお薦めの一冊を教えて下さい。

:呉念真1さんの『這些人・那些事(これらの人、あれらのこと)』(圓神出版社、2010年出版)を日本の皆さんに薦めたいです。僕がこの本を推薦する理由は、この一冊にはたくさんの台湾らしさが詰まっていると思うからです。僕は小さい頃からずっと都会で育った人間ですが、たくさんの親戚が中南部の田舎に暮らしています。僕自身、台湾の郷土文化に強い思いを持っている人間ですが、台湾という土地に対する思いや台湾人の性格というのは、自分の言葉で具体的に表現するのは難しいと思います。でもこの本には台湾人の情熱であったり、純朴さであったり、また台湾人が感じている思いとは何なのかがリアルに描かれています。

また呉念真さん自身の父親と兄弟の物語も描かれています。僕の父親も彰化の田舎で育った人間で、父親と父の兄弟・両親のやり取りを見ていると、この本に描かれている台湾人父子の感情とはまさにこういうものだと実感しますし、僕自身、父親との会話を通してこの本に共感できる所がたくさんあります。小さい頃、僕は必ず毎年夏休み・冬休みになると一ヶ月間ぐらい田舎に戻って、おじいちゃんおばあちゃんの家で過ごしていました。大家族で、親戚がとても多い家庭に育ったという自身のバックグラウンドにも関係しているのでしょうが、この小説には僕が強い思いを抱いている台湾という土地の文化、感情が描かれているすごく貴重な本だと思っています。中国語を理解できる外国の方々がこの本を読めば、台湾人をもっと知る事が出来ると思います。台湾という土地や人をユーモラスに描いた心が温まる物語です。

呉念真著『這些人・那些事(これらの人、あれらのこと)』(圓神出版社、2010年出版)

『這些人・那些事(これらの人、あれらのこと)』
(圓神出版社、2010年出版)
呉念真著

:呉念真監督と一緒にお仕事をしてみたいですか?

:はい、是非一緒に仕事をしてみたいです。でも実は呉監督とは知り合いなのです。というのは傅監督の「帶我去遠方(私を遠くに連れて行って)」のエグゼクティブ・プロデューサーが呉監督なんですよ。また彼は積極的に舞台のお仕事もされています。彼が監督・脚本を担当されている舞台劇はどれも台湾人の物語が多いですね。
台湾の人たちにとって呉監督の声の印象はすごく強いと思うんですが、この本を読んでいるとまさに呉監督が語りかけてくれているような感覚に包まれます。

:では秋に公開予定の新作映画「六弄咖啡館2についてお話を聞かせて下さい。この作品は台湾の人気オンライン作家・藤井樹3さんが自身の原作を改編して撮った初監督作ですが、初めて脚本を読んだ時の感想をお聞かせ下さい。

:実はすご〜く昔にこの小説を僕は読んでいたのです。昔、九把刀〔ギデンズ・コー〕4や藤井樹、痞子蔡5など人気オンライン作家の小説を色々読んでいて、その頃一度読んでいたんですね。でもすっかり忘れていたんです(笑)。

そして「六弄咖啡館」の脚本も実は正式にお話が来る前に読んでいました。というのは原作小説を脚本に改編している準備段階で、マネージャーが初稿か第二稿の脚本に目を通していて、面白いから読んでみたら?と見せてくれたからです。その頃はまだオファーが来ていた訳ではなかったので、仕事としてではなく物語を楽しむ感覚で読んだのですが、とても興味深い作品だと思いました。普通の青春小説や恋愛小説とは違い、コメディー要素もありますし、また物語の後半でとても悲しい展開を迎えます。とても面白い脚本だから参加したいなぁ・・・と思っていたら、その後正式にオファーが来たので、なんて素敵な巡り合わせだろうと思いました。すごく嬉しかったです。

初めて脚本を読んだ後、すぐにもう一度原作小説を読んだのですが、原作小説と脚本は大きく違うと思いました。そして演じる役柄が決まって読んだ決定稿と原作小説は更に大きく異なる内容でした。もちろん小説の本質部分は変わっていません。小説は主人公がメインの物語になっているのですが、映画はその他のキャラクターも深く掘り下げられ描かれていますので、多くの少年少女達を感動させる力をもった作品に仕上がっていると思います。

『六弄咖啡館』は皆が経験して来た青春のある状態を描いています。この小説を読んだ時、青春って真っ只中にいる時は気付かないけれど、過ぎ去った時にはじめて、ああ、 あれがオレの青春だったのか・・・と気が付くものなんだなと感じました。青春を謳歌している若者だけではなく、過ぎ去った青春を経験している方々も楽しめる作品ですし、すごく厚みのある映画に仕上がっていると思います。僕自身も撮影中に演技をしながら色々なイメージが頭の中に広がって、鳥肌が立つ思いでした。青春時代を振り返ってみると、あの頃はすごくめちゃくちゃで、バカでコントロールのきかない状態だったからすごく楽しかったな・・・と思いますが、反対にすごく悲しいとも感じます。なぜならあの頃はもう今は存在せず、失われているからです。

藤井樹さんの小説の話に戻りますが、僕は彼の小説の魅力はキャラクターを立体的に描き出す力のある台詞にあると思っています。また彼の小説ではあるエピソードが終了する時に、そのエピソードで伝えたい最も重要な事柄を短い言葉で表現するのですが、その一言にグッと心を動かされます。少年や青年達の心をとらえる名言だと思います。

:映画の公開がとても待ち遠しいです。では最後の質問です。林柏宏さんにとって本とはどのような存在ですか?
:僕にとって本は先生ではなく、友達のような存在です。本には色々な種類がありますよね、あるタイプの本はあなたに知識を与えるものですが、ある本はあなたに物語を伝え、感動を与えたり、感情が揺り動かされるものです。

本が面白いのは、同じ本を読んでもそれぞれの人が感じるものが違う所です。『六弄咖啡館』を読んでも、それぞれの人が惹き付けられる部分は違うと思います。
そして本は僕に安心感を与えてくれます。本を読んでいる時、僕は現実世界を抜け出しているようであり、でも反対に現実世界に更に近づいていると言えます。本の世界は虚構かもしれませんが、その虚構の世界が自分を現実に近づかせてくれる、自分がまだ理解していない現実世界を認識させてくれると感じます。小説や雑誌、精神を成長させてくれる本など色々な本を読みますが、本にはそれぞれが異なる機能があって、僕が生きているこの世界についてほんの少し新しい視点を教えてくれ、本を読む事で自分の事が少しだけ好きになれる・・・と感じています。

ボーホン君お気に入りの一冊 その2

『修煉當下的力量』
原題:Practicing the Power of Now: Essential Teachings, Meditations, and Exercises from the Power of Now
日本語名:『さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる』
 エックハルト・トール著
台湾では2009年に方智出版より出版。日本では2002年に徳間書店より出版。

ボーホン君が寝る前に読む本で、読むとすぐ眠れるそうです。

修煉當下的力量-

 

 

林柏宏3
【プロフィール】
林柏宏(リン・ボーホン)
1988年1月27日、台北市出身の俳優。2007年に中国電視公司が開催したオーディション形式音楽番組「超級星光大道」に出演し、芸能界に足を踏み入れる。初出演の映画「帶我去遠方(私を遠くにつれて行って)」(2009年)にて台北映画祭主演男優賞及び新人賞に入賞し、注目を浴びる。近年はマイケル・ベイ監督の「トランスフォーマー/ロストエイジ」や日本のテレビドラマ「金田一少年の事件簿 獄門塾殺人事件」への出演を果たすなど国際的な活躍が続いている。2015年の新作映画にはS.H.EのEllaと共演した「缺角一族(ミッシングピース)」、「真愛像阿飄(真実の愛はまるで幽霊)」、「六弄咖啡館」などがある。
写真提供:周子娛樂

  1. 1952年台北生まれの脚本家、映画監督、作家。侯孝賢監督の一連の作品を手掛け、台湾で最も活躍する脚本家の一人となる。主な脚本作品に「恋恋風塵」、「悲情城市」、「戯夢人生」など多数。戦前に日本教育を受けた自身の父をモデルにした映画「多桑(トウサン)」で監督デビュー。小説家としても活躍し、聯合報小説奨など多数の賞を受賞している。 []
  2. 台湾で2015年秋公開予定の台湾人気オンライン作家・藤井樹の初監督作となる青春映画。 []
  3. 藤井樹、1976年9月10日生まれの台湾オンライン作家。本名呉子雲。藤井樹というペンネームは、岩井俊二の映画「Love Letter」の主人公の名前から取った名前。 []
  4. 九把刀〔ギデンズ・コー〕1978年生まれ彰化県出身の作家。多作な作家として知られており、2000年にネット小説を発表して以来、これまでに70作品以上生み出している。多くの作品が映画、ドラマ、ゲームになっており、2013年に日本で公開された映画『あの頃、君を追いかけた』は、彼の自伝的小説を自ら監督として映画化し、アジア各国で大ヒットを収めた。 []
  5. 痞子蔡〔ピーズ ツァイ〕、1969年11月13日嘉義県生まれの台湾オンライン作家。本名蔡智恆。早い時期からネット作家として活躍しており、1998年にネット上で発表した処女作『第一次的親密接觸(初めての親密な接触)』が話題を呼び映画化され、二作目の『7-ELEVEN之戀』も映画化されている。現在台南市康寧大学の副教授として教鞭をとっている。 []