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「同時代フォトグラファーのリアルとシュール」

『揮手的姿勢 看・不見・張照堂』張照堂、呉忠雄(時報出版、2000年)

 文=天野健太郎

cover張照堂好きな本はたいがい書店の棚からこちらを見つけてくれる。無論それは台湾でも同じこと。
2000年、同級生とは中国語よりカタコト英語でコミュニケーションをとる機会のほうが多かった留学最初期、書店で手にし、躊躇なくレジに向かった本が『揮手的姿勢 看・不見・張照堂(手を振る姿 見える/見えない)』(写真 張照堂〔チャン・チャオタン〕、インタビュアー 呉忠雄〔ごちゅうゆう〕)である。もしかすると、勉強目的でなく買った、最初の台湾書籍がこれだったのではあるまいか? インタビューは何が書いてあるかさっぱりわからなかったが、それでも強いコントラストのモノクローム写真に惹かれ、リアルな質感にもかかわらず恣意的な構図とシュールな被写体を飽きることなく眺めた。
例えば、右頬に手を添えたしわくちゃのおばあちゃんのポートレイト。強い影は背景を塗りつぶし、首を見えなくするばかりか、後れ毛と額、頬骨だけを浮かび上がらせる。口元は影に隠れているが、おばあちゃんは確かに笑っている。
それから、豚がいい。コンクリの地べたに豚が一頭ゴロンと寝転び、尾っぽへと背な毛が波打つ一枚。顔も足も見えぬ豚の丸みが、遠い山影と重なり合う。偶然を捉えた構図であろうが、グラフィックとしておもしろい。
演劇的な写真もある。場末のビリヤード場裏の空き地であろう。裏口に自転車と洗濯板、竹箒が立て掛けられ、地表はレンガが崩れ、石が積まれ、枯れ草が這う。それを背景に、ひとりの男が映る。が、男は道化師のようなメイク、あるいは水中メガネのようなお面で顔を隠し、見た途端(ピントも微妙に外れていて)、現実感がおかしくなる。

戦後台湾を代表するフォトグラファー張照堂は1943年板橋(現・新北市)生まれ。58年より写真を始め、62年、台湾の風土の中、舞踏家のような肉体を写しとるスタイルを確立。65年初個展。実存主義に傾向し、シュールリアリズムで当時の社会の閉塞感を表現した作品は、大きな衝撃をもって受け入れられた。また実験映画、インスターレーションなどジャンルを超えて活躍し、李昂原作の映画『殺夫』で撮影監督を務めているので一見の価値がある(ただし、グロい)。
彼は、わかりやすく例えるなら、台湾の細江英公である。(細江英公は1933年山形県生まれ。56年初個展。代表作に土方巽を撮った「鎌鼬」、三島由紀夫を撮った「薔薇刑」など。) 張照堂の作品を見れば、台湾と日本のフォトグラファーの間に強い同時代性があることに気付くのではなかろうか?

本書は当然絶版だが、虎ノ門・台湾文化センターで彼の展示「歳月の旅」が開催中だ(10月30日まで)。張照堂がどんな肉体を撮ったか、ぜひプリントで確認してほしい。

展示の詳細はこちら
http://jp.taiwan.culture.tw/information_34_37739.html

 

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プロフィール

天野健太郎(あまの けんたろう)
1971
年、愛知県生まれ三河人。京都府立大学文学部国中文専攻卒業。2000年より国立台湾師範大学国語中心、国立北京語言大学人文学院へ留学。帰国後は中国語翻訳、会議通訳者。聞文堂LLC代表(ツイッターアカウント「 @taiwan_about 」)。台湾書籍を日本語で紹介するサイト「もっと台湾(http://www.motto-taiwan.com )」主宰。訳書に『台湾海峡一九四九』龍應台著(白水社)、『交換日記』張妙如、徐玫怡著(東洋出版)、『猫楽園』 猫夫人著(イースト・プレス)。『日本統治時代の台湾』陳柔縉著(PHP研究所)。俳人。