column_top_history

 

歴史の視点から現代台湾政治をみる(1)

文=黒羽夏彦

来年の2016年1月に台湾の総統(大統領)及び立法委員(国会議員)選挙が実施される。選挙が近づくと対立勢力のイメージ・ダウンを図る粗探しが過熱化し、台湾メディアを連日にぎわせているが、とりわけ政治的正統性を主張していく形で大きな影響を受けやすいのが歴史認識に関わる論争である。

政治への影響という観点からすると、次の三点にまとめられるだろう。第一に、日本統治時代の評価。第二に、二二八事件以降に顕在化した族群対立や省籍矛盾。第三に、国共内戦で敗れた国民党政権が台湾へ逃れて以降の対中政策をめぐる言説。こうした三点を念頭に置きながら、台湾現代史を考える上で参考になる書籍を紹介していきたい。

過去を振り返るとき、歴史用語の選び方そのものに現在の政治性が混ざり込んで議論をややこしくしてしまうことが往々にしてある。何義鱗『台湾現代史──二・二八事件をめぐる歴史の再記憶』(平凡社、2014年)は、2013年におこった台湾の高校歴史教科書をめぐる論争から説き起こしている。

これまで日本統治時代については「日治(日本統治)」時期と表記されていたが、ある出版社が「日治」は日本の植民地支配を美化していると主張して「日拠(日本占拠)」と記載したことから歴史認識をめぐる社会的亀裂が浮き彫りにされた。「日拠」という表現には、台湾は中国と不可分の領土であるという前提をふまえて、日本の台湾支配は不法占拠だったという含意がある。対して「日治」と言う場合には、オランダ、鄭氏政権、清朝など様々な外来政権に統治された歴史的多元性を前提として、日本統治もそうした中で並列的に位置付ける意図がある。

こうした用語の相違は、「中国」の正統性を軸に据えた中華民国史と、「台湾」というこの島における多元性を重視する台湾史との対立を端的に表わしている。さらに、日本統治によるインフラ整備や近代化を評価するのか、抗日闘争への過酷な弾圧や差別政策を糾弾するのか、どの側面に着目するかによっても見方は違ってくる。

2015年7月には馬英九政権下での歴史教科書改訂作業に対する不信感が高校生の抗議デモを誘発しており、歴史認識をめぐる論争はなかなか終わりそうにない。

 

 

コラム「台湾史を知るためのブックガイド」のその他の記事
全記事のリストはこちら

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA黒羽夏彦(くろはなつひこ) 台湾専門ブログ「ふぉるもさん・ぷろむなあど」、書評ブログ「ものろぎや・そりてえる」を運営。1974年生まれ。出版社勤務を経て、2014年3月より台南に住み始め、現在は国立成功大学文学院歴史系修士課程に在学中。東アジアの近現代に交錯したさまざまな人物群像に関心を持ち、台湾に視点を置いて見つめ直したいと考えている。