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歴史の視点から現代台湾政治をみる(2)

文=黒羽夏彦

1945年8月、日本の敗戦により台湾の植民地支配は終焉を迎えた。多くの台湾人は「祖国」への復帰を大歓迎したものの、来台した国民党政権の失政や腐敗のため、当初の期待は瞬く間に失望へと変わった。鬱積した不満は1947年2月28日に台湾全土で抗議行動として現出したが、残酷なまでの鎮圧作戦でおびただしい犠牲者を出す悲劇を招いてしまった。このいわゆる二二八事件については、例えば何義鱗『二・二八事件──「台湾人」形成のエスノポリティクス』(東京大学出版会、2003年)、阮美妹『台湾二二八の真実──消えた父を探して』(まどか出版、2006年)などがあるし、侯孝賢監督の映画「悲情城市」もこの事件を背景としている。

二二八事件およびその後に続いた白色テロといった政治的迫害は多くの人々に沈黙を強いることになり、台湾社会内部に深刻な亀裂を生み出した。第一に「本省人」と「外省人」との対立関係(省籍矛盾)を決定的にし、第二に台湾における民主化運動は、タブー視された二二八事件の真相究明要求と連動して展開したため、二二八事件は台湾史を考える上でどうしても無視できない。何義鱗『台湾現代史──二・二八事件をめぐる歴史の再記憶』(平凡社、2014年)は二二八事件を起点として台湾現代史の葛藤を描き出している。

1945年以降、国民党政権と共に来台した人々を「外省人」といい、それ以前から台湾に住み続けていた人々を「本省人」という。戦後、政治経済の上層部は外省人にほとんど占められた上、二二八事件や白色テロといった経験を通して、本省人は自らを外省人と区別する形で族群意識を強めるようになった。王甫昌(松葉隼・洪郁如・訳)『族群──現代台湾のエスニック・イマジネーション』(東方書店、2014年)は戦後台湾史における族群形成のプロセスを分析している。

台湾では閩南人、客家人、外省人、原住民と分類する形で「四大族群」という言い方がされる。族群とはエスニック・グループの中国語訳だが、閩南人、客家人、外省人は漢人としての同一性も持つ一方、原住民には16族が含まれており、分類は単純ではない。王甫昌は族群に関して本質主義的な立場は取らない。不公正な立場に置かれていると自覚した人々が、文化的・種族的差異を戦略的に活用しながら他者との差別化を図りつつ、自らの権利確保の運動を展開していく際に想像されたグループとして「族群」は捉えられている。二二八事件以降、疎外された人々は自らを「本省人」と規定して、「外省人」と区別した。漢人優位の社会においては「原住民」が団結して権利向上を主張し始めた。漢人の中では閩南人が多数を占めるため、「客家人」も自らのアイデンティティを模索し始める。

こうした族群の再発見は1980年代以降の民主化運動と連動しており、逆にそれまで既得権益者とみなされていた外省人が今度はマイノリティー意識を強めていく。実は外省人とて特権階級はほんの一握りに過ぎない。彼らのアイデンティティ上の葛藤についてはステファン・コルキュフ(上水流久彦・西村一之・訳)『台湾外省人の現在──変容する国家とそのアイデンティティ』(風響社、2008年)を参照されたい。いずれにせよ、こうした台湾の族群意識は選挙のたびに一定の影響をもたらしている。

国共内戦に敗れて台湾へ逃げ込んだ蒋介石は「反攻大陸」の方針を堅持し、反共主義が国是となった。1987年に戒厳令が解除されたが、これは民主化を促進しただけでなく、反共主義による大陸敵視政策の取り下げをも意味した。民主化は台湾意識の高まりを反映していたため、両岸関係の焦点はそれまでの国共対立から統独問題(中台統一か、台湾独立か)へと移行していく。こうした過程で中国ナショナリズム(台湾独立には反対)の観点から共産党と国民党が共同歩調を取る可能性も出てきた。また、大陸の急速な経済成長に台湾資本も取り込まれていく一方、経済的な結びつきの強まりによって台湾が政治的・社会的にも飲み込まれかねないという懸念をもたらし、それは2014年にひまわり学生運動を大きく盛り上げる要因となった。

来台した「中華民国」が本土化・民主化を通して変容していく過程については、若林正丈『台湾──変容し躊躇するアイデンティティ』(ちくま新書、2001年)が概説的に説明してくれる。両岸関係の変容については若干古い書籍だが、山本勲『中台関係史』(藤原書店、1999年)、丸山勝・山本勲『中台関係と日本──東アジアの火薬庫』(藤原書店、2001年)が参考になる。中国側の外交政策を通して体系的に理解するには、福田円『中国外交と台湾──「一つの中国」原則の起源』(慶應義塾大学出版会、2013年)が専門書ではあるが適切だろう。

 

これでこのコラムは最終回となります。少しでも台湾理解に資することができましたなら幸いです。ありがとうございました。

 

 

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OLYMPUS DIGITAL CAMERA黒羽夏彦(くろはなつひこ) 台湾専門ブログ「ふぉるもさん・ぷろむなあど」、書評ブログ「ものろぎや・そりてえる」を運営。1974年生まれ。出版社勤務を経て、2014年3月より台南に住み始め、現在は国立成功大学文学院歴史系修士課程に在学中。東アジアの近現代に交錯したさまざまな人物群像に関心を持ち、台湾に視点を置いて見つめ直したいと考えている。