1102著者紹介
阮義忠(げんぎちゅう/ルアン・イーチョン)
1950年台湾・宜蘭生まれ。雑誌『雄獅美術』に勤務後、23歳で雑誌『漢聲』英語版編集部に入り撮影を始め、80年代は雑誌『人間』などで活躍。ヒューマニズムを基礎とした写実的スタイルで、30年以上フォトグラファーとして活躍。90年代には海外の作品を紹介する雜誌『攝影家Photographers International』を創刊。世界各国での個展開催のほか、『人與土地(人と土地)』、『台北謡言(台北の噂)』、『北埔』、原住民の『四季』、『八尺門』、『失落的優雅(失われた風雅)』など十冊以上の写真集を発表。評論『當代攝影大師(現代写真の巨匠たち)』『當代攝影新銳』は、台湾と中国においてフォトグラファーの啓蒙書として高く評価されている。台北芸術大学美術学部教授。かつての写真集に文章を加えた形の再刊が進んでおり、2015年にも『失落的優雅』『想念.亞美尼亞(アルメニア)』などが再刊され、後者は個展(華山文創園区)も開催された。

リンク
『人與土地』、『台北謡言』
http://www.books.com.tw/products/0010543111
リンク(フェイスブック)
https://www.facebook.com/juanijongworkshop

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著者について・読みどころ
70年代台湾に『漢聲〔ハンシェン〕』という雑誌があった。「中華文化の残響」を意味するこの雑誌は、黄永松編集長を中心に、美しいグラフィックで台湾や中国(87年渡航許可以降)の在野の伝統文化・習俗を紹介し、世界的に高い評価を得た。
80年代台湾に『人間〔レンジエン〕』という雑誌があった。中国語で「世の中」「社会」を意味する(ヒューマン・ビーイングではない)この雑誌は、小説家・陳映真〔ちんえいしん〕を中心に、台湾と中国の社会の深層を写真と文章で伝え、台湾の文化史に力強い足跡を残した。
この台湾出版史でもっとも先鋭かつ特異な2冊の雑誌で、そのヒューマニズムにあふれる写実的写真スタイルを育んだのが阮義忠である。

1986年屏東県牡丹郷旭海

1986年屏東県牡丹郷旭海

1988年峨眉街

1988年峨眉街

『人與土地(人と土地)』、『台北謡言(台北の噂)』は彼の代表作品である。
『人與土地』の作品は、74年から86年、都市化が進んだ台北を離れ、都蘭、美濃、南澳など台湾の農村、漁村を訪れ、土地と人とのあいだにかつてあった強い結びつきの残滓を記録するため撮影された。1987年刊行時、連載していた『人間』の陳映真は序文にこう寄せている。「現代人がこれらの作品を見たとき、よく見知った風景でありながら、とてつもなく縁遠いものとして映るだろう。彼が撮った農村が、現代人に土地と人の関係を再発見するきっかけになればいい」 それは作者である阮自身が強く感じたことでもあった。彼はかつて、生きるための労働を嫌い、貧しい境遇を恨み、自分を育んだ土地を捨て、都会に出た。仕事の必要から、彼はカメラを手にして写真を始めた。そして取材で地方を歩き、さまざまな土地と人、文化をフィルムに収めた。そのファインダー越しに彼は初めて、台湾の農村の風景こそが自分の故郷であると再認識し、彼らの暮らしにある尊さを見つけだしたのだ。土地への憎悪はこのとき慈愛へと変わった。

その後、彼は一千本以上のフィルムから作品を厳選し、個展を開催して、写真集を刊行する。今の我々が、この台湾の片田舎の労働者やと子供たちの写真見れば、すぐセバスチャン・サルガドを思い出すだろう。87年当時のインタビューで彼は、日本の写真家・三留理男〔みとめただお〕のアフリカ飢餓民を写した作品群に影響を受けたと答えている。そしてテーマ(章立て)はこう定めた――1.子供たちの成長 2.農民たちの労働 3.土地と信仰 4.生と死――86枚の写真からは、人と人、あるいは人と土地とのあいだにあるおだやかな信頼と感謝が伝わってくる。

同時期に刊行された『台北謡言』(75-88年撮影)は、台湾の地方の美しさにたいして、大都会の乱雑さを批判するつもりであったが、それは同時に阮自身が生活の場所であり、おのずと自己にたいする批判ともなった。この作品をまとめるとき、W.ユージン・スミスの言葉にヒントを得た。都市は変わり続け、ひとが努力してある真実を感じたとしてもそれはただの“うわさ”にすぎない。彼が切り取ったひとつひとつの“うわさ”は、台北という都市の発展と人びとの日常に潜む、どこか荒唐無稽な一面を切り取っている。
田舎にせよ都市にせよ、急速に変化する70-80年代台湾の貴重な記録となったこの2冊は、本来写真集であったが、発表から20年余り経ったあと、中国の新聞『南方都市報』の依頼で写真掲載にあわせて、当時の撮影時のエピソードが書かれ、2012年に行人出版社よりエッセイも含めて再刊された。阮は言う。「一枚一枚の写真の背後には、小説になるほどの長いストーリーが隠されている」
 

 

作品
『人與土地』

1981年、南投県埔里鎮

1981年、南投県埔里鎮

1976年、屏東県恆春鎮

1976年、屏東県恆春鎮

1983年、高雄県岡山鎮

1983年、高雄県岡山鎮

1984年、屏東県三地門郷

1984年、屏東県三地門郷

1981年、苗栗県泰安郷

1981年、苗栗県泰安郷

1982年、高雄県美濃鎮

1982年、高雄県美濃鎮

1981年、宜蘭県頭城鎮

1981年、宜蘭県頭城鎮

1983年、高雄県茂林郷

1983年、高雄県茂林郷

『台北謡言』

1982年、中山国小

1982年、中山国小

1979年、衡陽路

1979年、衡陽路

1988年、芝麻百貨

1988年、芝麻百貨

1985年、建国北路

1985年、建国北路

1988年、日盛證券行(証券会社)

1988年、日盛證券行(証券会社)

1988年、中華路

1988年、中華路

1986年、八徳路

1986年、八徳路

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