column_top_taiwan

「猫が可愛いだけじゃない。」

『台湾這裡有猫』猫夫人 (2011年、腳丫出版)

 文=天野健太郎

台湾に有名な、猫夫人がいる。
猫ではない。人間の女性である。猫の夫人でもない。人間である獣医の奥さんである。猫が大好きで、猫専門で写真を撮るようになり、そして猫写真のブログがきっかけで写真集が3冊刊行され、ディスカバリーチャンネルなど多くの取材を受けるほか、田代島にゃんフォトコンテストも受賞したという、筋金入りの“猫”夫人である。

もっとも、彼女を有名にしたのは、可愛い猫写真ばかりではない。その理由は彼女の具体的な行動にある。
台北郊外の猴硐(ホウトン)はかつて炭鉱で栄えたが、その後人口200人程度まで減ったが、そのさびれた集落に120匹もの猫がいたのだ! 彼女がブログに写真を載せるうち、内外から猫好きが訪れるようになり、台湾有数の「猫村」として脚光を浴びるようになった。
それだけではない。老いた住人たちでは多すぎる猫の世話が行き届かず、心を痛めた彼女と仲間たちはネットで呼びかけ、村の清掃活動を行うことにしたのだ。それ以降も猫好きを集めて餌やり、去勢・避妊手術、予防接種など長期的にボランティア活動を展開。のら猫と地元コミュニティとの共存を実現した。

台湾といえば猫カフェ発祥の地であるが、猫夫人によれば台湾で猫は決して好かれる存在ではないと言う。犬と比べると「感情がない」「陰険」などマイナスイメージがあり、「猫の目に魂を吸い取られる」、「猫を飼うと商売が傾く」(「じゃあ日本の招き猫はなんなのよ!」と猫夫人は反論する)など迷信がまだまだ根強い。
だから猫夫人はまず写真を通じて、猫がいかに可愛いかを一般の台湾人に知ってもらい、さらにボランティア活動で猫をサポートし、人と猫の間に信頼が生まれるよう仲立ちし、猫の汚名を晴らす努力を続けている(小説『古都』などで知られる永遠の“乙女”作家、朱天心も同じくのら猫保護のため、発言・活動している)。
台湾ではこんな前向きで実直な市民運動・ボランティア活動が日常的かつ多彩に行われており、企業・政治・行政ともそれなりに“共存”している。
猴硐猫村では2013年3月、もよりの台鉄・侯硐駅に新しい跨線陸橋が完成した。これも行政と市民グループの連携の結果である。彼女は橋のデザインなどに知恵を貸し、4月にNHKが猫村を取材した際も、その案内役を務めた。

彼女の第一写真集(&エッセイ)『台湾這裡有猫(台湾で見つけた猫たち)』が、日本でも刊行され(邦題『猫楽園』、イースト・プレス)、個展も新宿ペンタックスフォーラムで開催された(2013/7/17-29)。2016年も日本での刊行やイベントが予定されている。猫好きはもちろん、たくさんのみなさんにお越しいただき、台湾猫と猫夫人の行動力を感じていただけたら。

台湾ブックセレクション#8 『猫らおばん』作品概要
台湾ブックセレクション#9 『猫らおばん』部分訳1
台湾ブックセレクション#10 『猫らおばん』部分訳2

 

コラム「臺灣~繁体字の寶島」のその他の記事
全記事のリストはこちら

プロフィール

天野健太郎(あまの けんたろう)
1971
年、愛知県生まれ三河人。京都府立大学文学部国中文専攻卒業。2000年より国立台湾師範大学国語中心、国立北京語言大学人文学院へ留学。帰国後は中国語翻訳、会議通訳者。聞文堂LLC代表(ツイッターアカウント「 @taiwan_about 」)。台湾書籍を日本語で紹介するサイト「もっと台湾(http://www.motto-taiwan.com )」主宰。訳書に『台湾海峡一九四九』龍應台著(白水社)、『交換日記』張妙如、徐玫怡著(東洋出版)、『猫楽園』 猫夫人著(イースト・プレス)。『日本統治時代の台湾』陳柔縉著(PHP研究所)。俳人。