台湾文化をより広く、深く知っていただくために、台湾より講師をお招きして台北駐日経済文化代表処 台湾文化センターで行われている「台湾カルチャーミーティング」のレポートをお届けします。第2弾は猫写真家兼ボランティアとして活躍する猫夫人〔ねこふじん〕さんです 。

※11月3日にも猫夫人のギャラリートークが行われます。
猫写真グループ展「横浜赤レンガ倉庫 ねこ写真展2016~今を生きる猫たちのキロク・キオク~
(会期11月2日~7日)会場にて。
詳細は>http://cat-press.com/cat-event/yokohama-akarengasoko-catphoto-2016

台北からローカル線で約1時間、渓流の両岸に十数軒の家が点在する小さな小さな集落・猴硐〔ホウトン〕。たくさんの猫がいる“猫村”として、ここ数年は日本の猫好きの間でも話題になっています。実は数年前までは、外から訪れる人はほとんどいない寂れたもと炭鉱町だったとか。それが今のような国内外の観光客が訪れる人気スポットに変わったのは、ひとりの猫好きな女性の活動がきっかけでした。
その女性は、猫写真家で猫ボランティアの、通称・猫夫人。

2016年5月13日、東京・虎ノ門の台湾文化センターで、台湾カルチャーミーティング第3回「猫らおばん参上! ホウトン猫村を歩け、台湾猫店主を探せ!」と題し、猫夫人のスライドショー付きトークが行われました。

もともと、夫が営む動物病院のウェブサイトを作るために、写真の撮影を勉強し始めたという猫夫人。台湾各地で撮影した猫の写真を、温かい文章と共に掲載したブログが大人気に。『猫散歩 Cat Walk』『猴硐 猫城物語』など著作も多数あり、日本でも2013年にその翻訳版『猫楽園』(イースト・プレス刊、原題『台灣這裡有貓』※リンクhttp://www.amazon.co.jp/dp/4781610080/ )が刊行され、今年3月にも『店主は、猫――台湾の看板ニャンコたち』(WAVE出版刊、原題『台灣這裡貓當家』)が出たばかり。nekof1ujin-title

この日のトークでは、スライドで写真を映しながら、小柄ながらとても良く響く声の持ち主である猫夫人が、テンポのいい口調で台湾各地に取材に行った時のエピソードなどを話してくれました。
「みんなが黙って聞いているだけなのはイヤ」という猫夫人が、トークの途中で客席へ向けてクイズを連発。正解者には猫夫人自らが台湾から持参した猴硐駅の記念切符、パイナップルケーキなどの賞品が配られ、大いに盛り上がりました。

まず、猴硐の話から。かつてアジアでも有数の精錬所を持つ炭鉱町として栄えていた猴硐。当時は多くの炭鉱夫が寝泊まりする宿舎があり、その鼠対策として猫が飼われたそうです。1981年の閉山後、若者は村を離れ、老人ばかりが住む寂れた集落になってしまいました。猫夫人が2009年に初めて行った時は、「猫がたくさん。でも、路地にゴミもたくさん」という荒れた状況だったそうです。
その後猫夫人は、ブログで募集したボランティアと一緒に猴硐に通って、猫たちに治療を行い、餌を与えました。同時に無償で集落内を清掃したり、住人とコミュニケーションをとって正しい猫の世話のしかたを説明したりするなど、集落全体の環境も少しずつ改善していきました。ついには地元・新北市の役所も動いて、駅周辺の道や歩道橋、トイレや猫の治療センターなどを整備し、今では週末・平日を問わず、たくさんの猫好きが訪れる大人気の場所となりました。

「最初の頃、猫たちは私の声を聞くとすぐに飛んできたけど、今では毎日観光客から美味しいものをもらっているから、もう私のことなんか見向きもしないのよ(笑)

猫夫人の、好きなものに対する情熱、それを伝える発信力、人を巻き込む行動力、行政まで動かしてしまう影響力……、台湾人のアツさを象徴するような話でした。

猴硐以外にも、猫夫人は、台湾の地方に行って「台湾独自の風景や物などと猫を一緒に撮るのが好き」だそうです。
この日、スライドで紹介されたのは、
麺線(そうめん)工場で、風になびく麺線と戯れる猫
布袋戯(台湾の伝統的人形劇)の舞台からひょっこり顔を出す猫
糖葫蘆(果物の飴がけ)の屋台でぐるぐる回るハエ除けの紐にじゃれる猫
……などなど、“台湾ならでは”のモチーフと、そこで暮らす猫たちの、なんでもないけどとても魅力的な日常の一コマ。

「有名な観光地じゃないけれど、台湾には素敵な風景がたくさんある。それを見て欲しい」という猫夫人の気持ちが伝わります。

「猫を探して旅すると、キュートな猫だけでなく、本当にフレンドリーな人々に出逢う」という猫夫人の言葉通り、日本での新刊『店主は、猫――台湾の看板ニャンコたち』では、台湾各地のお店で看板猫として働く猫たちと、お店の人たちとの交流が語られます。
 やはり鼠除けのために乾物店や食品店で飼われている猫が多いとのことですが、「猫がいるお店には、なぜかお客さんも引き寄せられる」ということなので、招き猫の役割も大きいようです。台湾の猫は、猫なのに働き者ですね。

「写真を撮っていると、猫と飼い主の顔がだいたいよく似ていることに気がついた」そうです。確かに、長年一緒に働いている(?)看板猫とお店のおじさん、おばさんは雰囲気もどこか似ていて、言葉は通じなくてもお互いの気持ちは通じている様子が見えます。

「写真を通じて台湾人の動物に対する優しさを伝えたかった」という猫夫人。猫夫人の写真だけでなく、猫夫人の存在そのものから、台湾人の動物への優しさ、愛情が伝わってくるのでした。

トーク終盤、会場とのQ&Aは、台湾人と日本人の猫愛が炸裂する楽しいやり取りとなりました。

写真は5月14日大阪・Calo Bookshop and Cafeにて

写真は5月14日大阪・Calo Bookshop and Cafeにて


読者 「今日、猫夫人が穿いている猫デザインの靴はどこで買ったんですか?」
猫夫人「日本で買ったのよ(笑)。サイズが合ってないけど、最後の1足だったの」

読者 「猴硐以外で、台湾の猫に会うのにお薦めの町は?」
猫夫人「麺線工場の写真を撮った、中部の鹿港という老街や、中部の山の方の南投とか。台湾の南部は暑すぎて、猫を飼っている人は北部ほど多くない」

読者 「日本の猫はミケやシロなど、毛の色の名前が多いですが、台湾では?」
猫夫人「台湾人は猫に果物や食べ物の名前を付けることが多いです。“橘子(ミカン)”とか“蘋果(リンゴ)”とか“肉圓(肉あん餅)”とか(笑)

「新しい総統の蔡英文さんは猫好きとして有名ですが、多くの猫好きの有権者が蔡さんに投票したのでは?」という質問には、猫夫人は「そうです! 猫好きは連帯意識が強いんです!」と断定。その後、なぜか小声で「馬英九は犬を飼ってたけど」と付け加えたのが、会場の爆笑を誘いました。

トーク終了後のサインタイムでは、30人以上の読者が列を作りました。日本で出た翻訳本だけでなく、猫夫人の著作の台湾版原書を持参してサインしてもらう人も何人か。
金曜の夜、海を越えた猫好きの熱い語らいの場となりました。

 
 

イベント講師プロフィール 猫夫人(猫写真家、猫ボランティア)
猫好きで撮影を始め、猫がいると聞けばフットワーク軽く、台湾中を駆け回ってカメラを構える。猫写真を掲載したブログは大人気となり、1000万ページビューを数え(現在は閉鎖)、Facebook公式ページ( https://www.facebook.com/catpalin/ )は9万いいね!を突破。台湾で多くの個展を開き、新聞・雑誌・テレビの取材のほか、ディスカバリーチャンネルにも出演。野良猫とコミュニティとの共存を目指し、台北郊外のホウトンで去勢手術や環境美化など息の長いボランティア活動を続け、ひなびた旧炭鉱町を世界中の猫好きが訪れる猫村に変えた。nekof3twcatinshop_obi
2009年第2回田代島にゃんフォトコンテスト「金猫大賞」受賞。2013年には新宿ペンタックスフォーラムで個展「猫の楽園―台湾―」を開催。フォトエッセイ『猫楽園(原題:台灣這裡有貓)』(イースト・プレス)、『猫散歩』(凱特文化)のほか、ボランティア記録『猴: 猫城物語』(猫頭鷹出版社)など著作多数。最新邦訳は『店主は、猫台湾の看板ニャンコたち』(WAVE出版)

 
 
 
 
 

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執筆者プロフィール
三浦裕子(みうらゆうこ)
本好き。本の雑誌社での学生アルバイト後、小学館に入社。雑誌編集部勤務を経て、国際版権業務部門で台湾・香港エリアへの版権許諾業務を十数年担当。現在フリー。アジアの本、書店、出版事情の観察は鋭意継続中。